03
新しいのをくれよ、とも思ったがここで拒絶するのも意識してるみたいで何となく雰囲気が悪くなると感じた名無しはゆっくりと口を開けてサッチが持つ煙草をくわえた。
サッチの指先が唇の上に少しだけ触れて、ガラにもなくちょっとドキッとした。
そのまま吸い込んで唇を離す。
一本丸ごとくれる訳じゃないらしい、サッチが煙草を持ったまま視線を絡めてくる。
合わせる、と言うより絡めてくる。
いつもと違う感覚から逃げるように紫煙を肺に流し込んで、吐き出そうとした瞬間にサッチの唇が名無しの唇に重なる。
吐き出された紫煙をサッチが普通に全て吸い込んで、何事もなかったように唇が離れた。
「うーん…薄い」
ふっ、と少ない紫煙を吐き出したサッチが不満そうに呟くと、名無しはハッとして我を取り戻した。
「なにしてんのサッチ!今日のサッチなんかおかしい」
「んあ?何が?」
「何がって…いつもはしないじゃんそんなこと」
冗談にしたって少々やり過ぎだ。
周りがいたってここまでやったらドン引きに違いない。
「なに?人前でやって欲しかった?」
「いやいや、そう言うことじゃなくてさ‥」
「俺は別に人前でしてもいいけど」
へらりと笑うサッチは煙草を持っている手で酒瓶を掴んで、喉の奥に酒を流し込む。
「私もそろそろ部屋に戻るわ、ちょっと酔っ払ってきた」
不穏な空気を感じ取った名無しが椅子を足で押しやって立ち上がる。
今日のサッチはなにか違う、そう本能が脳内で警告していた。
「まだ全然飲んでねぇじゃん、早すぎだろ」
パシッと乾いた音と共に握られた二の腕のせいで、折角立ち上がった身体が椅子に落ちる。
その途端に冷や汗が一気に吹き出した。
「…サッチ酔ってんの?」
「酔ってるかも、途中で甘い酒飲んだから」
うーんと頭を掻いたサッチは煙草を吸い込んで、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「飲みなおすから名無しも付き合えよ」
「‥いいけど、さっきみたいなことしないでよ」
顔をしかめてサッチを見ると、へいへいと適当に返事をされていつものように笑われた。
いつものように笑うサッチにホッとしながら飲みかけだったグラスに再び手を伸ばす。
「名無しって好きなヤツいねぇの?」
「うぐっ」
ホッとしたのもつかの間でサッチの言葉に酒を吹き出しそうになる。
と言うのも何年も仲良くしてきたがこの手の話は一切してないからだ。
海賊は自由が大好きで、囚われるようなことは一番嫌う。
好きな人が出来れば、それが弱味になりそれが足枷になる。
それぐらいサッチだってわかってると思ってた。
直接そんなことは言ったことはないが、サッチとは感性が似ているのを感じていたし、そんなことを言うなんて思ってもみなかった。
「なにそれ、なんの冗談?」
口許を袖で拭いながらサッチを見ると、相変わらず気の抜けたような笑顔でん?と返される。