02
「それでその時のマルコの顔がよー‥」
「ウケる!想像できるから更にウケる!!」
サッチの部屋で酒を飲みながら交わす会話は尽きることがない。
酔っぱらっているから同じ話を何回も繰り返しているのだが、そんなことはどうでもいい。
その場が楽しければどんなことだってありだ、それが一緒にいる理由であり、飽きない理由。
「お前の美味い?」
「これ?まぁ美味しいけどサッチには弱すぎかも」
この間買ってきたばかりの酒瓶を傾けた名無しは、物欲しそうな顔をするサッチに飲む?と笑いかける。
名無しも酒には弱くない方だが、サッチが好む酒のアルコール度数は常人を卓越しているため、名無しが飲む酒なんて多分水にしか感じない。
「直飲みしていい?」
「いいよー」
受け取った酒瓶を口元に近づけたサッチに、名無しは軽く頷いた。
別に今更間接キスなんて気にする仲ではない。
まぁそんなことを気にかけるサッチはまだ全然酔っぱらっていないと言うことだろう。
本気で酔っ払ってくると、そんなこと聞かないし飲んでいいか聞く前に勝手に飲む。
「甘‥舌が痺れる」
べっ、と舌を出して顔をしかめるサッチに名無しは酒瓶を奪い返す。
別に名無しの選ぶ酒は甘い分類ではない。
名無し自身甘い酒が好きではないから甘くはない、サッチが飲んでいるのなんてアルコール度数が高過ぎて寧ろ消毒液臭い。
「サッチ舌おかしいんじゃね?甘くないから」
コップに注いだ酒に口をつけるが、やはり甘くはない。
カクテルなんてサッチは飲めないだろう。
文句があるなら飲むなよ、と口を尖らせると、サッチの唇が名無しの唇に触れた。
冗談みたいな音を立てて離れる唇に、名無しは口に残る酒をごくりと飲み込んだ。
「…な、に」
二人きりでキスをしたのは初めてだ。
と言うか二人きりでしたって笑ってくれる人は誰もいないし、冗談でもキツイ。
「え?ああ、いや何となく…口が寂しかったから」
「やめてよね、笑えないじゃん」
親指で唇を拭った名無しは嘲笑するかのように笑って、また酒に口をつける。
「毎日してるからクセになったのかもなー‥」
指先で唇に触れながら唸るサッチは特に気にした様子もなく、煙草に手を伸ばす。
煙草は酒のつまみになると誰かが言っていたが、その通りだ。
マンネリしてくる口内は何故かニコチンを強く求めて知らず知らずの内に手を伸ばしてしまう。
名無しもサッチが手を伸ばしたのを見たら急に吸いたい衝動に駆られた。
「私にも一本頂戴」
「ん?ああ…ほら」
火を付けたばかりの煙草をサッチが吸い口を向けて名無しの口に運ぶ。
こんなことされたのも初めてだ。