04
こたつに足を突っ込み、携帯を手にして未だに悪戦苦闘している名無しの腹部に腕を絡める。
ふわりと名無し独特の香りが鼻を擽って、なんだか変な罪悪感を感じた。
「さっきから進んでねぇけど、大丈夫か?」
頬と頬をくっつけるように後ろから名無しの肩越しに顔を覗かせると、名無しがうーんと少し困ったような声を上げた。
どうやら手詰まりらしい。
眉を下げてサッチを見る名無しに腹部に回していた手を名無しの手のひらに重ねる。
「ほら、ここからアドレス選んで」
選んで、なんて言ってもサッチとマルコのアドレスしか入っていないのだが。
と言うかいつの間にマルコのヤツ、と内心毒づいて、後で絞めてやろうと固く決意した。
慣れない手つきで携帯を触る名無しの手がたどたどしく動いてメール画面を引き出す。
「…分かった」
うん、と頷いた名無しに名残惜しいが手を離して再び腹部で腕を絡めた。
多分2、3分経ってからサッチの携帯がメールを知らせるために小刻みに震えた。
「お、出来たんじゃねぇの?」
「多分…」
ちょっと自信無さげな表情で携帯をポケットから取り出したサッチを見る名無し。
新着を知らせる表示を確認すると、そこには確かに名無しの名前があって、それだけなのにニヤけそうになってしまう自分が恥ずかしくなる。
誤魔化すように手を口に当ててメールを確認したが、ニヤるのは我慢できそうにない。
目尻が下がっていくのが自覚できるほどで、口元だけじゃ隠しきれなかった。
件名に、「さっち大好き」だけ。
本来なら本文に書けよ、とか笑って小突いてやりたいところだが、沸き上がる歓喜がそれをさせてはくれなさそうだ。
「ちゃんと届いた?」
「え?…ああ、ばっちり」
俯いてカチカチと返信を打ちながら名無しの頭を撫でると、安堵の溜め息で肩が大きく落ちた。
「あ、サッチからメールがきた」
小さな手の中でメール受信を知らせる携帯に、名無しは少し驚いたようにどこを押すべきか躊躇する。
ピカピカと受信を知らせるランプが光る度に、名無しがオタオタと慌てた挙句電源ボタンを長押しに至る。
「サッチ、画面消えた」
「だからここは長押ししたらダメだって、メールが来たらここを押すと勝手に開いてくれっから」
再び手を重ねて、電源ボタンを長押しすると起動画面に切り替わる。
名無しはサッチの言葉を反復するかのように指を動かし、一人頷いた。
暫く考えてメールボックスを開いた名無しは初めてのメール少し感動していた。
今まではとりあえず電話だけだったので、感動したらしい。
「サッチ、」
「んー」
メールを見た名無しが身体を少し後ろに倒してサッチの胸に寄りかかって顔を見上げた。
少し照れ臭くて、顔が見れなかった第ニ月曜日。
紡ぐ四季
「私もサッチと暮らしたい」