03
緑だった葉っぱが茶色く色を変え何となく侘しさを感じる季節、サッチが一方的に不便さを感じて名無しの携帯を買いに街に出た。
日中はまだ過ごしやすく、名無しは被写体を探すようにキョロキョロと辺りを見回す。
あまり街に出ない名無しにとっては興味をそそられるものばかりらしい。
最初の頃は固まっていて周りを見る余裕なんてなさそうだったが、最近は随分と慣れたものだ。
慣れたとはいえ、それでもサッチにぶら下がるようにしがみついてはいるが、これはこれの方がサッチ的には嬉しかったりする。
沢山並ぶ携帯を目の前に当の本人は興味はなく、色々なディスプレイに興味を引かれたようで、辺りを気にするように見てはジッとディスプレイに見入っている。
「名無しこれは?」
「なんでもいいよ」
「でも使いやすい方がいいだろ?」
「何がいいか、わからないし」
名無しがチラリとサッチの手の中にある携帯を見て、首をかしげて顔をしかめる。
今まで一度も携帯を持ったことがない名無しにとっては本当にどうでもいいらしい。
色々見せては見たが、全く食いついては来ない。
短く溜め息を吐いたサッチはなるべく簡単そうな携帯を探す。
「サッチ」
「ん?」
「サッチと同じがいい」
くいくいっと袖を引く名無しにサッチは少し考えて頭を掻く。
サッチの持つ携帯は結構古いもので、新しいものが入れ替わる最近では店頭には置いてない。
「どうせだったらサッチと同じ方が嬉しい」
「そうかよ」
隣に居た高校生カップルが名無しの発言にうわっ、みたいな顔で見ていて、ちょっとキレそうになった。
声を大にして言ってやりたい、お前の隣にいる女よりも名無しの方が比べるのもおこがましいぐらい可愛いと。
でもまぁ、これでも大人なので軽く咳払いして許してやった。
名無しの前で怒って、名無しが怖がったらそちらの方がよっぽど大事だ。
「でもなー…俺の持ってる携帯売ってないし」
「そうなんだ」
オークション等で買うと言う手もあるが、そうすると時間も手間も掛かる。
となると、方法はあと一つ。
「俺も買い替えるか…」
馴染みがあって使いやすかったが、どうせもう古いし自分だけだと面倒で壊れるまで買い替えない。
名無しも同じがいいと言ってくれてるのだから、別にいいか、とあっさり買い替えることを選んだ。
わりかし女には身体しか求めないタイプだった自分だが、意外に一途だったんだなとちょっと笑えた。
「好きな色あるか?」
「サッチは?」
「あー…」
思い出したのは名無しの撮った青い空の写真。
出会ってすぐに意識を持っていかれたあの空の色だった。
「俺は青が好きだな」
「じゃあ私も青がいい」
そう言って名無しは少しだけ表情を緩めた。
「やっぱ俺白にするわ」
「なんで?」
名無しの今の表情が、あまりにも無垢で。
思い出すら白く塗り替えたから、なんて言えるはずもない第二火曜日。