02
人間嫌いな名無しはまさかの動物も嫌いだった、らしい。
「サッチ!」
珍しく声を荒立てた名無しは、ささっとサッチの背中に隠れた。
グイグイと突き出すように名無しはサッチの背中を押し出す。
「なんだ、名無し動物苦手なのかよ」
後ろでコクコクと頭を上下に激しく揺らす名無しに、やれやれと頭を掻く。
そう言えば、名無しの写真には動物も写ってなかったな、と今更思い出してみたり。
「帰るか?」
「リハビリする」
「別にそんなに無理することねぇんだぞ」
「サッチと一緒なら大丈夫」
後ろに隠れてそんなことを言われたところで、全く大丈夫ではなさそうだ。
キュッとシャツを握る名無しに短く息を吐いて、腕を後ろへと回してひらひらと指を動かした。
その指先に気がついたのか、その指を名無しがしっかりと握りしめる。
動物園を縦並びで回るカップルなんて珍しくて仕方がないのか、周りの視線が何をしているんだと訴えていた。
でもまぁ、名無しがそれで納得するなら別にそんな視線なんともない。
「無理だったらちゃんと言えよー」
「うん」
返事と共に握り締められる指に思わず口許が緩んで、背中に感じる名無しの体温がなんとなく幸せだと思った。
「サッチ、猿がいる」
「猿のところってまだじゃなかったか?」
名無しが示す方を見ると、若干猿よりの人間がいて思わず吹き出すかと思った。
「こらこら。名無し、猿が服来て歩いてるわけねぇだろ。あれは人だから」
「そうか。ごめん」
小声で後ろに向かってそう呟くと、高揚の無い声が返ってきた。
苦笑いして建物のガラスに映った自分と名無しをふと見る。
背中にぴったりとくっついて歩くその姿はコアラなんかには負けないくらい可愛くて、全てがどうでも良くなるぐらい笑いが溢れた。
「どうしたの?サッチ、楽しそう」
小刻みに揺れる背中を不審に思ったのか、名無しが背中から顔を出してサッチを見上げる。
拳を口に当てて笑っていたサッチはいや、と軽く咳払いをしてから覗き込む名無しの頭を軽く撫でた。
「名無しと居ると、全部どうでもよくなるぐらい幸せだなって思ってさ」
そう言って優しく目を細めると、名無しは少し考えてから頷く。
頭を戻した名無しの額が、サッチの背中にこつんとぶつかる。
「私もサッチと居ると幸せだよ」
そう小さく呟いた名無しは両手でサッチの指を握った。
暑いぐらいの気温なのに、ずっと手を繋いでいたいなんて柄にもなく考えてしまう第一金曜日。