04
街はクリスマス一色で華やかな電飾が目を痛いぐらい刺激してくる。
赤と緑が入り交じる街は、なんだか異様な空間にすら思えた。
多分、女でもいれば話は違ったかもしれない。
クリスマスに休みを取るために、必死に仕事しただろうしプレゼントも用意しないといけないから、きっとてんてこ舞いだったはずだ。
そんな彼女には1年前のクリスマスに仕事が忙しくて振られたわけだが。
「あー虚しい…」
ギャラリーの中はやはり白に統一されていた。
入る度に寒々しいのは、暖房が入っていないからだ。
立て付けの悪い建物は風通しがよくて困る。
なにもこんな真冬に風を通してくれなくてもいいと言うのに。
「イルミネーション見に行ったのかよ」
「行ってない」
無表情に口を開いた名無しは新しい写真を飾っていた。
小さいその写真は望遠鏡で覗いたかのような静かで今にも凍りつきそうな冷たそうな湖を写したもの。
飾り終わった名無しはなんだか満足そうにその写真を見つめていた。
「自分で撮った写真好きなんだな」
「好きじゃなきゃ撮らない」
「そうだな」
もう半年、休みを除いて毎日通っているが名無しの態度は軟化せず。
最初よりは嫌がらなくなったものの、今だに訪れると呆れたような嫌がっているような顔をする。
「入れ換えた写真どうすんの?」
「捨てる」
「え?マジで?俺のお気に入り捨てられた!?」
「…あれは、捨ててない」
名無しの方に手を伸ばして声を裏返すと、一度こちらを見てからまた写真に目を移した。
「ビビった…あれ俺のお気に入りだから捨てられてたら拾いに行くとこだった」
「あげるって言ったのに」
「名無しが変な条件付けるから貰えなかったんだろ?捨てるなら俺が貰う」
「サッチ」
小さめの脚立から降りた名無しが、無表情で名前を呼ぶ。
「ん?」
「サッチ、こっち」
似たような語呂に笑いそうになったが、名無しは至って真顔で店の奥を指差した。
どうやら言葉は足りないが、こっちにこいと言っているらしい。
初めて名無しと会話らしい会話をした。
サッチが奥についていくと、薄暗いその部屋には沢山の写真が飾ってあった。
と言うか、ギャラリーよりも倉庫らしき部屋の方が倍以上ある。
その奥には暗室らしきものがあるから、これまた驚きだ。
「すげぇな、これ名無しが全部撮ったのかよ」
「そう」
ぐるりと見渡すように首を回すと、名無しが重ねた額の間からサッチの気に入っていると言った写真を取り出した。
「ん」
そしてそれをサッチに差し出す。
飾ってあった時よりもずっと小さくなったその写真は、濃縮されたような色合いに見えた。
部屋が薄暗いから、だろうか。
「俺のお気に入りがこんなに小さくなってる…」
「あれは引き伸ばしたやつ、こっちがオリジナル」
「へー…くれんの?」
「うん」
小さく頷いた名無しの手からそれを受け取った時、少し触れたその手がかなり冷たかった。
「仕事終わったら俺とイルミネーション、見に行かねぇ?」
触れた手を逃がさないように軽く握ると、名無しは目を伏せてからまた頷いた。
いいよ、消えそうなその声は、きっとどんな写真よりも心が暖かくなる一言だった。
それが12月の終わりのこと。