02
勝手に店に入って、勝手に椅子に腰掛けてただ目の前にあるパノラマ写真を見つめる。
透き通ったような青い空と、真っ白な雲。
草原にでも寝転がったような気分が味わえて、都会の淀んだ空気すらも美味しく感じれるぐらいだ。
「また来た」
薄暗い奥の部屋から出てきた名無しはまた顔を歪めて、口をへの字にヘシ曲げる。
「俺さ、この写真欲しいんだけど」
「二度と来ないならあげる」
見事な嫌われっぷりに思わず笑ってしまう。
「あげるって…売り物だろ」
「売ったことない」
名無しはそう言って写真を取り外す。
大きな額に入ったその写真を、ん、とサッチの方に突き出した名無しは余程ご不満なのかかなり機嫌が悪そうな顔をしていた。
「くれんの?」
「二度と来ないでくれるなら」
「…あー、俺名無しになんかした?」
耳の裏を人差し指で掻きながら名無しを見ると、目を伏せたまま眉間にシワをよせる。
なにがそんなに不満なのかは分からないが、とにかく嫌なんだと顔全体で表していた。
「…別に、サッチが嫌いな訳じゃない」
「名前覚えてくれたんだな」
「……」
「なんか、悪かったな」
名無しの形相が凄い厳つすぎて思わず謝らずにはいられなかった。
サッチの言葉を聞いて名無しは短くため息を吐いて、斜め下を見ながらまた写真をサッチの方に突き出す。
「もう来るなって約束でくれるならいらねぇよ、どうせ毎日来るからここで見るし」
名無しの顔がまだ来る気なのか、と青くなる。
「別に俺のことが嫌じゃねぇならそれでいいしさ」
スーツの袖を軽く引いて、腕時計で時間を確認したサッチはまた来る、と名無しの頭を撫でた。
払い除けられたりはしなかったが、これまたものすごく嫌そうに眉間にシワを寄せている。
写真を持つ手の隙間に一応名刺なんて挟んでみたが、燃やされてしまいそうだ。
とにかく、名無しはサッチのことが特別嫌いな訳ではないらしい。
そうすると考えられるのは、男嫌いか人見知りか。
一番可能性的に見れるのは前者だろう。
結構いる。
後ろ髪引かれるようにギャラリーを振り返ると、名無しは手に挟まった名刺をまじまじと見ていて思わず口許が緩んでしまった。
ぼんやりと名刺を見つめる名無しを佇んで見ていたら、名無しが視線に気がついたようにガラスの扉越しに目が合った。
死にそうなぐらい嫌な顔をされたのが、確か出会って3ヶ月目。