05
名無しにしてはやけに饒舌だ。
しかもやけにしおらしい。
「なんだよ急に」
「そろそろ、出ていった方がいいかなと思ったり思わなかったり」
「は?いや、だってお前‥」
行くところないじゃん、とか、さっきはどっちでもいいって言ってたじゃん、とか。
言葉にならない言葉がぐるぐると頭の中で渦巻いた。
「サッチの友が‥えー‥と」
「マルコ?」
「そう、彼が寄生させてくれるって言ってた。から」
なに抜け駆けしようとしてんだよ、アイツ。と内心毒づいてから名無しを見ると、相変わらずどうでもよさそうにテーブルに頭を乗っけて眠そうな目でサッチを見ていた。
「私はサッちゃんの家の方が居心地いいから居やすいんだけれど、どうでしょう?」
「どうでしょうも何も‥お前俺のさっきの話聞いてた?」
「はて‥」
呆れたように言うと、名無しは考えるような顔を一瞬して、速攻で諦めた。
「ずっとうちに居る気ねぇの?って俺は聞いたよな?」
「そうでしたか」
「そうでした。そしたらお前はどっちでもいいって言っただろ」
「おやまぁ…私が?」
一時間も経っていないのに名無しの頭からは記憶が抜け落ちていたらしい。
いや寧ろこの反応は何も聞いてなかったと言った方が正しいだろう。
「だいたいマルコのとこなんか行ったらダラダラ出来ねぇんだぞ、無条件に甘やかして貰えるのはうちだけだからな!」
「そうか」
本当はマルコのところに行っても無条件で甘やかして貰えるだろうし、ダラダラも許して貰えるだろうが、向こうも勝手に抜け駆けしようとしたぐらいだ。
このぐらいの嘘なら別にたいしたことはないだろうと思う。
「だからうちにいろ。うちに居たらどんだけダラダラしてようが俺が甘やかしてやるから」
キコキコと見つけた缶切りでみかんの缶詰を開けたサッチは名無しのご所望通りに皿に移す。
「だから俺のとこにいろよ」
名無しの目の前にみかんを置くと、フォークで名無しの口元にみかんを運ぶ。
それを口に含んだ名無しは至極どうでも良さそうにわかったと小さく頷いた。
家にはニートがいる。
本人曰く、自宅警備員らしいがトイレとベッドぐらいしか警備しない。
専ら寝ていて簡単に言うとただの穀潰しだが、そんなニートを喜んで寄生させてしまった自分は、一体なんなんだろうかとサッチは思う。
今日も帰りにコンビニでプリンを買ってニートの待つ家に帰るわけだが、きっと彼女はまた寝てる。
そしてなにもしてないくせにダルそうな顔でこう言う。
「おかえり、サッちゃん」
お手をどうぞ