04





最近はご飯だと言えばちゃんとベッドから出てくるようになった。
名無しにしては上出来だ、ダルそうなのはあれだが。



「おー‥うどーん」


「お前がうどんが良いって言ったんだろ」


「私うどん好きだからね」


「あと漬け物な」


「そう、それも好き」


箸を持ったままうんうんと頷く名無しはへらりと表情を緩めて、うどんを啜る。



「薄くねぇ?」


「まぁまぁです」


「そうかよ」



相変わらずの口振りにサッチは小さく笑いながら、頬杖をついつ食べる名無しを眺める。


「サッちゃん食べないの?」


「んあー…後で食うわ」


「おやおや、そうですか」



お腹が空いていない訳じゃないが、自分が作ると何故か食べたくなくなる。
ずるずるとうどん啜る名無しはたいして興味なさそうに口を動かしながらネギを箸で必死に避けていた。


前作った時には避けていなかったから、多分今日はネギの気分じゃなかったらしい。



「たまには美味いって言わねぇの?」


「まぁまぁだよ、基本的にサッちゃんの料理はまぁまぁ」


「あー、そう。じゃあ俺の作る料理で一番好きなのは?」


「なるほど」



言葉に詰まったようにうどんを飲み込んだ名無しは目を泳がせる。


名無しには色んな料理を食べさせてはきたが、一切覚えてないらしい。


ずずっと汁を啜りながら器用にネギを避ける名無しはハッと思い付いたかのようにサッチを見る。



「…あれが好きだな、ほら」


「なんだよ」


「なんだっけ‥あの‥コロッケ」


「ああ、買ってきた惣菜のコロッケな」


「…買ってきたやつでしたか」



名無しは白菜についたネギを箸で掴んで器の端へと張り付けていく。
そこまで嫌か?と思うが、名無しは変なところばかりこだわる。



「ごちそうさま」


「みかん食う?」


「食べたい」


「缶詰だけど」


「………」


物凄く嫌そうな顔をされた。
別に缶詰だからといって侮れないとサッチは思うが、名無しにとってのみかんは皮を剥いて食べるものだったらしい。

実際に剥くのはサッチなのだが。


「缶詰か…」



なんだか愕然している名無しに罪悪感が芽生えて、



「プリンもあるけど」


と慰めるように付け加えた。



「プリンはお風呂から上がってから食べる、みかんくれ」


「なんだよ、散々渋い顔しといて食うのかよ」


「お皿に入れて」



こたつで丸くなる名無しにへいへいと適当に返事をして、缶切りを探す。
缶切りなんて滅多に使わないから、どこにやったかすら覚えていない。

こんなことならプルタブ付きのを買えばよかった。




「ねぇ、サッちゃん」


「んあ?」


「私がいて、窮屈じゃない?」



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