お手をどうぞ







だいぶ暖かくなってきたこの頃。
サッチは八百屋の前でコタツとセットの定番であるみかんを見ていた。


冬と言えばコタツ、コタツと言えばみかん。
みかんと言えば、ニートである名無し。


そのぐらい名無しはみかんが好きらしい。


剥くのは勿論サッチで、白い筋まで綺麗に剥かないと食べないのだが、率先して食べる名無しを見るのが嬉しくて何個でも剥いてやっていたわけだ。
しかし最近暖かくなってきて美味しそうなみかんががくんと減った。



「……」


店先に出ているみかんを手で確認して見るが、皮はブカブカで中身が詰まっていないのは明らかだ。



「缶詰みかんとか食わねぇのかな‥」



ぼそりとサッチが呟くと、八百屋の店主に睨まれてしまった。






結局、不味そうなみかんは買わずにスーパーで缶詰みかんを購入。
ないよりはマシだろうと買ってはみたが、なんとなく後ろめたくてプリンも買ってしまった。


ビールとみかんの缶詰、プリンと煙草。
買物袋の中はなんともミスマッチな組み合わせだ。


買い出しは基本的に週末に済ませるから、冷蔵庫の中身は充実している。
ただビールやら煙草やらはまとめ買いすると調子に乗って飲みすぎたり吸いすぎたりしてしまうので毎日ちょっとずつ買う。


最近は名無しもたまに飲んだりするので余分に買ったりする。




「ただいまー」



相変わらず暗い部屋でゴロゴロとしている名無しだが、珍しく座っていた。
座っていたと言ってもベッドの上に崩れたようにだが。



「おかえりサッちゃん」


「おーただいま、俺電気つけて行き忘れた?」



最近は名無しがいるので電気はつけっぱなしで出るようにしているのだが、消えている。



「んー…あれ、ほら節電」


「ああ、そうかよ」


相変わらず変な事に気を使う奴だ。
だいたい昼間消したのなら暗くなってきたらつけろよ、と思うが殆ど動かない名無しにとっては面倒くさい距離になるのだろう。



「晩飯なにがいい?」
「んー?みかん」


「ば・ん・め・し」



みかんを与えてから名無しの脳内はみかん一色になってしまった。
もともと好きだったのか、5個ぐらいは余裕でぺろりとたいらげる。



「…この間の漬物」


「この間の漬物?」


「うん」



この間の漬物、で思い当たるものと言えば、残業で遅くなったときに買ってきた出来合いの弁当についてた漬物ぐらいのものだ。
そう言えば固いものが嫌いな名無しにしては珍しくカリカリ噛んでいた気がする。



「てか漬物は飯じゃねぇよ」


「……」



答えるのが面倒になった名無しはずるずるとベッドの上で崩るように横になる。



「あれがいいな…うどん」


「うどんばっかだな」



横になったまま呟いた名無しに、煙草に火をつけながらため息を吐くと言い逃げするように布団を頭から被った。



prev|戻る|next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -