05
黙々と運ばれてきたパスタを口に運ぶ名無しは、フォークにパスタを巻き付けるのも面倒らしい。
上手く巻けずに挫折。
「ちゃんと食え、ほら」
それをフォローするように名無しの皿に手を伸ばすサッチはくるくるとフォークにパスタを巻き付けて、置いてやる。
甘やかすなとは言いたかったが、さっきのこともあり見て見ぬフリをした。
気にしなきゃいい。
いつものことだ。
別にサッチがどれだけ甘やかそうと、別にこっちに迷惑さえかからなければいい。
「眠たい」
「ちゃんとメシは食え」
巻き付けてフォークすら持たなくなった名無しに、サッチが呆れたように結局口まで運んでやる。
「ほら」
「噛むのが面倒‥」
眠そうに口を動かす名無しはそろそろ限界らしい。
口を動かすスピードすらスロウになってきているが、名無しの皿の上は3分の1も減っていない。
「飲み込め、ちゃんと噛んで飲み込め」
次をスタンバイしているサッチに名無しは相変わらず急かされることもなく、もくもくと静かに噛んでいる。
「そんな無理矢理食わせんなよい…」
「コイツはこうでもしなきゃ食わねぇの」
食事に関してはサッチは厳しい。
眠そうにしている名無しの肩を軽く叩いて起こし、叩いて起こししながら口に運ぶ。
「……マルコ、眠い」
初めて名無しが助けを求めるような目でこっちを見た。
会ってから初めての目だった。
「寝かせてやれよい、眠たいのに無理矢理食わせたら可哀想だろい」
気がついたら、そう口走っていた。
「…ったく、明日はちゃんと食えよ」
呆れたようにため息を吐いたサッチは、持っていたフォークを置いて名無しの頭を撫でた。
やっと解放された名無しは後ろに控えていたソファによじ登り、身体を丸くする。
それにお気に入りの膝掛けをマルコが掛けてやると、満足そうに目を閉じた。
「…な?」
「‥よい」
さすがにサッチにも言い返せなかった。
恐るべし庇護欲。