04
先に出てきたつまみを食べながら2本目のビールに手を伸ばす。
パソコン画面を見ながら資料を手探りで鞄から取り出して、見比べてからまたパソコンに目を通す。
ペタペタとフローリングを歩く音に後ろを見ると、名無しが寒そうに肩を竦めながら戻ってきた。
「浸かんなかったのかい」
「だってお湯張るの面倒…」
「ああ、髪の毛ちゃんと拭けよい」
「んー‥」
首に巻いていたタオルで2、3回カシカシと力無く拭いてマルコの持っていた膝掛けをくれと手を伸ばす。
「ちゃんと拭け…お前ちゃんと身体拭いたかよい?」
伸ばされた腕すら微妙に滴が残っていて、歩いてきたであろう廊下を見るとは若干濡れて光っていた。
そのまま名無しの足を見ると、完全に拭ききれていないのがわかる。
「…そのうち乾くから大丈夫」
「そう言う問題じゃねぇよい」
渡しかけていた膝掛けを背中に隠して、拭くまでは渡さないと暗に示すと名無しは口を尖らせてサッチの居るキッチンを見た。
サッチは名無しの視線を感じたのか一度は名無しを見たが、軽く首を振る。
「…」
ダメだと悟った名無しはもう一度首にかけていたタオルで数回頭を拭いてマルコの顔を見る。
どうだ、と言わんばかりの名無しの顔だが、マルコは頷くことはない。
「……」
名無しは、膝掛けを諦めてソファに掛けてあった毛布を身体に巻き付けだす。
「ちゃんと拭けよい」
「んー…面倒だもん‥」
そのまま横になろうとする名無しの腕を反射的に捕まえたマルコは、仕方ないとばかりにタオルでがしがしと髪を拭いてやる。
がくがくと揺れる名無しの首だが、なんの抵抗もなく拭かれるのはいつもならサッチが拭いてやるからだろう。
「おやおやマルコさんは甘やかさねぇんじゃなかったか?」
「風邪引かれると面倒だから仕方なくだよい」
出来上がったばかりのパスタを持ってくるサッチは、ニヤニヤとマルコを見る。
そんなサッチに舌打ちしたマルコは結局ドライヤーまで持ち出して乾かしてやった。
基本几帳面なので、最後までやり遂げたかっただけだと自分に言い聞かせる。