03
「名無し先に風呂入って来いよい」
マルコの言葉に名無しがまた恨めしそうにこちらを見る。
放っておくと、風呂にも入らないとはどんな女なんだとため息すら出てこない。
やりかけていた仕事を置いたまま、立ち上がって名無しが丸まっている膝掛けを取り上げる。
わかっていたかのようにもそもそと立ち上がった名無しはとぼとぼと言う言葉がよく似合う歩き方でお風呂へと向かう。
こうでもしないと名無しは絶対に立ち上がらない。
「おい、タオルと着替え持っていけよい」
「サッちゃーん…」
名無しが懸命に声を張り上げるのはこのときだけだ。
その声に反応したサッチは、家から持ってきた着替えから名無しの着替えとタオルを持って行く。
本当に甘やかし過ぎだと思う。
お前は母親か?と何度突っ込みたくなったことか。
「ちゃんと身体洗えよ」
「うん」
脱衣場から顔を出した名無しの頭を撫でるサッチ。
もう突っ込み所が満載過ぎて突っ込む気にもならない。
「甘やかしすぎだよい」
「あ?そうか?」
キッチンに戻ろうとするサッチに顔を歪めて言うと、まるで無自覚。
当たり前のことしかしてませんとばかりの顔のサッチにため息が出た。
「お前が甘やかすから名無しはなんもしなくなるんじゃねぇのかよい」
ビール片手に名無しの占領していたソファに腰掛けると、サッチがあー、と困ったような声で唸る。
「そんな言うのは分かるけどな、多分俺がなにもしてやらなかったらお前がするぞ?」
「俺はしねぇよい」
お前と一緒にするな、と呆れたように視線を送ると、サッチはいやいやと苦笑いする。
「それが名無しの不思議なとこなんだよな、なんて言うの?庇護欲を駆られるわけだ」
「俺にはわかんねぇよい」
「じゃぁ試してみようぜ、俺なんもしねぇから」
煙草を吸い終わったサッチがニヤニヤ笑いながら、灰皿に煙草を押し付けてキッチンに戻っていく。
「うちは禁煙だって何回言えばわかんだよい」
「一本吸えばあとは何本吸っても同じだって」
サッチも大概いい加減なヤツだ。