恐るべし庇護欲





仕事が終わり、軽く一杯。
いつもなら嫌々付き合うが、今日からは付き合いたくないと言うか帰らないといけない理由が出来た。





現在、マルコの家には名無しと言うニートが住んでいる。
どうやら春先まで居る気の彼女は、無気力人間と言っても過言ではない。


もとは友人のサッチのところに居候していたのだが、修羅場に鉢合わせしたらしく今はマルコの家に住み着いている。




「なーマルコーっ!」



「悪いけど春先までは付き合えねぇよい」



ネクタイを緩めたエースが懇願するようにマルコの腕を引くが、それを申し訳なさそうに振りほどく。
今までは嫌々ながら付き合っていたこともありしつこいのなんの。



「なんだよ!女でも出来たのか!」



ひねくれたエースが口を尖らせて、マルコの脇腹を肘で押す。



「…まぁ、似たようなもんだよい」



暫く考えたが、そう答える他はなかった。
後はどう言えばいいかわからなかったし、一から説明するのも面倒だ。


名無しを見に行きたいと言うエースを宥めて、今度付き合うと渋々約束をして家に帰る。



サッチから飼い方指南を受けて、家の電気から暖房まで全て付けて出たせいか、家の中は異常に暖かい。

相変わらずリビングのソファに寝転んでいる名無しの前に、これまたサッチから言われた通り名無しが好きだと言うコンビニのプリンを置くと、閉じていた瞼がピクリと反応した。



「おかえり、マルコ」



多分、この瞬間のためにサッチは名無しを養っていたんじゃないかと最近思う。
あくまでも予想だが、名無しはこの「おかえり」を言うときだけ少しだけはにかむ。




「ああ、ただいま。土産だよい」


袋からプリンとスプーンを出して、ガラス製のテーブルに置くと、名無しが膝掛けから手を伸ばす。
ぐぐっと精一杯伸ばしたらしいが届かず、挫折した。



「…‥」


そして恨めしそうにマルコを寝たまま見上げる。
ちょっと身体を起こせば届くのに、だ。


甘やかすのはよくない、と無反応で対応していたが後ろからサッチが帰ってきた。



「名無し、ただいま」


「サッちゃんもおかえり」


名無しがこのうちに住むと言い出したら何故かサッチが合鍵を寄越せと言い出して、気がつけば一緒に住むことになっていた。




「マルコも居たのか」


「居るよい」


「サッちゃんサッちゃん」


「んあ?」



煙草に火を付けながらマルコを見ていたサッチが名無しの声に過敏に反応する。


名無しがだらけた理由、それはサッチが甘やかすからだ。間違いなく。



「ああ、届かなかったのか」



名無しは何も言っていないのにも関わらず、視線の先にあったプリンの蓋を開けて手渡してやっていた。



「寝たまま食うんじゃねぇよい」


「はーい」



膝掛けを身体に巻き付けて、ソファに座った名無しはこれまたサッチがビニールから出してやったスプーンでプリンを黙々と食べる。


特別、感想なんかは言わない。
あまり好きじゃないと、無言で返してくる。
とんだワガママっぷりだ。



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