05
サッチ曰く、自然消滅したと思っていた元カノが合鍵を使って家に入ってきたらしい。
それで同棲していた名無しは怒りを買い、追い出されたのではないかとのこと。
言い切れないのは家にいた元カノを放って、名無しを探しに出たからだろうと思う。
「名無し」
珈琲を飲み終わり、名無しの肩を揺するとだるそうな声を上げて名無しが顔を傾けた。
突っ伏して寝ていたせいか、顔に線の跡が付いている。
「おーサッちゃん…」
眩しそうに顔をしかめながら片目を開けた名無しはごろりと寝返りを打って身体をサッチの方に向けた。
数秒目を閉じて、ゆっくりと目を開けるがまたすぐに目を閉じる。
「帰るぞ」
「んー…いやー」
だるそうに目を擦り、軽く首を振る名無しは膝掛けを巻き付けるように身体を丸くした。
暖かさに閉じていく瞳は気力などが一切感じられない。
「名無し我が儘言うなよ、帰るぞ」
「でも、いやだ」
宥めるように優しく名無しの頭を撫でながら言うサッチは今まで一度も見たことのない顔で、マルコは苦虫を噛み潰したような表情をする。
これで付き合ってないだなんて嘘だとしか思えない。
「もうアイツは来ないから」
駄々をこねる子供に言い聞かせるかのようなその言葉に名無しはんーとかえーとか至極面倒そうに顔をしかめながら膝掛けで顔まで覆う。
大判な膝掛けがお気に召したようだ。
「マルコに迷惑がかかるだろ、ほらおぶってやるから」
「んー…ああ、うん」
会話すら面倒になったらしい名無しはちらりとマルコを見る。
「別に居たけりゃ居てもいいよい」
名無しの視線を受けて、頭を掻いたマルコに名無しはまたサッチに視線を戻す。
そう言ってるよ、と言わんばかりの視線だ。
「……」
何故かサッチから批判するような表情を受けるマルコはまたため息を吐く。
「春になったら、帰る…」
寒いから、と小さな声で呟いた名無しにサッチとマルコは顔を見合わせてため息を吐いた。
寄生先探しています