5日目
ごうんごうんと艦内に不気味な機械音が響く。
倒れてしまったローをどうすればいいかわからず、担いで引きずっていたところをシロクマが迎えに来た。
どうやらローは悪魔の実を食べた能力者だったらしく、倒れたのは水に触れていたかららしい。
水を苦手とする能力者なのに、雨が降っても帰ってこないローを心配して探しに来たと言っていた。
本来なら倒れたローを預けて帰るべきだったのだが、よくわからないうちに潜水艦の中に案内されていた。
しかもタオルまで借りてしまっている状況だ。
「キャプテン、なんでそんな無茶するの!」
「……」
そして目の前ではローがシロクマに怒られている。
不機嫌そうに眉間にシワを寄せて、シロクマから視線を反らしているローの顔色はだいぶ赤みが戻ってきている。
「波に巻き込まれそうな人を助けるのはいいけど、キャプテンが倒れたら意味ないんだからね!」
ぷんぷんと怒っているシロクマに、ローはタオルを被ったままなにも反論することなく黙ってそっぽを向く。
ローが誰かに怒られている姿はなんだか妙に新鮮だ。
本人はまったく堪えていないようだが。
「名無しちゃんが運んでくれてなかったらキャプテン今頃海の中だよ!」
「そもそもこいつが海の中にいたんだ」
「それでもキャプテンは海が弱点なんだから」
ローは悪びれなくこいつが悪いと言わんばかりに名無しを指をさした。
それを見たシロクマは怒りのあまりぷるぷると小さく震える。
「キャプテンのばか!もう知らないんだから!」
シロクマは全く反省していないローに我慢できなかったらしく、バシバシとテーブルを叩いて部屋から飛び出していった。うおんうおんと低い泣き声が少しずつ小さくなっていく。
恋人同士の修羅場のようなやりとりを一部始終見てしまった名無しは、静まり返った部屋の中で目を伏せた。
何故ローを預けてさっさと家に帰らなかったのか、後悔するばかりだ。
「ごめんね。なんか私のせいで怒られたみたいで」
「あいつはもともと過度な心配性なんだ。明日には忘れてる」
ローが船長だったことだとか、シロクマが普通に喋っていることとか、色々と不思議なことはあったが、それを聞く気にはならなかった。
外の嵐が嘘みたいに静かな艦内には、再び機械音が響いた。