1日目
波の音を聞きながら昼寝をするのは最高に気持ちがいい。
潮風を浴びながら、木陰で寝ていると、まるで海の中にいるのうな気分になる。
「……」
少し眩しさを感じて目を開けると、葉の隙間からキラキラと太陽が覗いているのが見えた。
絶え間なく聞こえる波の音に一度目を閉じてから深呼吸をする。力の抜けきってしまった身体に気合いを入れてから一気に起き上がると、人の気配がして振り返った。
そこにいたのはふかふかした動物の毛皮で出来たような帽子を被った男だった。
男は何やら分厚い本を読んでおり、長い足を投げ出している。
名無しの住む夏島では見たことのないような垢抜けた顔立ちをしていて、とてもじゃないが同じ生き物だとは思えない。
観光客にしては少し不自然な感じがするその男の手の甲には刺青が見えて、何となくだが堅気ではないことを悟った。
「おい」
あまりジロジロ見たらよくないと思い、スカリを掴んで立ち去ろうとした瞬間、男に呼び止められて振り返る。
「この島のログはどれぐらいで溜まる?」
「あ、えーと……一週間かな」
多分、と付け加えると、男は帽子を押さえながら深くため息を吐いた。
なにか事情があって早く出航したいのだろうが、こればかりはどうにもならない。
「……なんか困ってるの?」
「よくわかったな」
「そりゃあ……それだけオーバーなため息を吐いてれば嫌でも」
自覚はなかったのか、少しきょとんとしたような顔をしていた男は少し抜けているのかもしれない。
「実は」
「うん」
「暑いのが苦手なんだ」
はぁ、とまた深いため息を吐いた男は、燦々と降り注ぐ太陽から逃げるように帽子を深く被りなおした。
「……そ、そうか」
どれだけ重大な問題かと思っていた名無しからすれば、返事をすることを忘れてしまうよぐらいどうでいいような問題だった。続きがあるような気がしてしまう。
確かに夏島は暑い。しかもよりによって夏島の夏。
苦手な人間にとっては苦痛でしかないだろう。
「そのうち心地よくなるよ。この島の暑さは尾を引かないから」
「だといいが」
見た目は怖いのに、少しだけ抜けたその男はまた大袈裟なため息を吐いた。