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前に見せてくれたような蕩けそうな優しい顔が目の前に近付いてきて、触れるだけのキスをされた。


額と鼻先が重なって、サッチが小さく肩を揺らす。



「な、なに笑ってるんですか」


「んー…いや、可愛いなぁと思ってさ」



ちゅっ、と軽いリップ音が響いて名無しは顔をしかめる。
気が済んだなら離れてくれれば良いのに、サッチは一向に離れる気配がない。



「サッチさ、ん…」


名前を呼ぶとまた唇が触れる。
啄むように繰り返されるキスに、名無しは眉間にシワを寄せる。
言葉を発しようとする度にキスをされるもんだから避けるように仕方なく身体を反らしてみたが、前のめりになってついてくるもんだから意味がない。



「…さ、サッチさんっ!」


慌てて身体を押し返す時にはサッチに組み敷かれていた。
本当にいつの間に、と言う感じだ。



「どうした?」


「どうしたじゃないですよ!なんで乗っかってるんですか!」


「あー‥ホントだ。気がつかなかった」


「目が嘘だって言ってますよ」


「バレた?」


「もう!バレバレですよ!退いてください」


名無しの身体の下に入り込んだファイルがチクチクと腰に刺さる。
スカートも捲れているし気が気じゃない。



「いいじゃん、俺名無しちゃんから離れたくねぇもん」



にっこりと笑いながらまた唇を重ねてくるサッチに名無しはため息を吐いた。

仕事中だから押し退けるべきなのだろうが、サッチの笑顔を見ると力が入らない。



本当にいつからこんなに不真面目になってしまったのだろうか。


流されてしまおうかと思った瞬間、不自然な咳払いに名無しの顔が青くなる。



「遅いから心配して来てみれば…なにやってんだよい」


「ま、マルコさん…」


そうだ。資料を頼まれていたのにすっかり忘れていた。
それどころか肝心の資料は名無しの下敷きになっている。


「邪魔すんなよ、今ラブラブしてたのに」


「名無し、お前こっちからパンツ丸見えだよい」


「「んな!!」」


慌てて立てていた膝を下ろすと、サッチが捲れていたスカートを戻してくれた。


「まだ俺も見てねぇのに勝手に見てんじゃねぇよ」

「教えてやっただけだよい」



呆れたように言うマルコは床に落ちているファイルを拾い上げて中を確認する。
パラパラと捲ってため息を吐いたマルコは二人にどけ、と手で合図をした。



「そう言うことを会社でするんじゃねぇよい…まったく」


下敷きになったファイルを拾い上げるマルコに名無しもかき集めるようにファイルを手にとる。



「す、すみません」


「名無しは真面目なんだからお前も道連れにすんな」


マルコが拾い上げたファイルの角でサッチの頭をガッと叩く。



「マルコが真面目過ぎんだよ、なぁ名無しちゃん」


「…私はマルコさんの言う通りだと思います」


「冷たっ!さっきまでの可愛い名無しちゃんは何処に行っちゃった!?」



ファイルを全て拾い上げて、スーツを叩いた名無しは少し口を尖らせて、サッチを見る。


「後で…、携帯に掛けますからちゃんと知らない番号でも取ってくださいね」



ふいっと顔を反らしながら言うとサッチがまたへらりと笑った。



































只今絶賛恋愛中



「なぁ…マルコ、何色だった?」


「白」


「あ、俺白好き」


「サッチさんっ!マルコさんも言わないでください!」



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