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一体、この人は何を言っているんだろうと散乱しているファイルをぼんやり見ながら思った。

他人から話を聞いているかのような感覚に名無しは一人苦笑する。



「俺はさ、名無しちゃんの企画とか考え方とか凄い惹かれてた。だからこの間没になった企画見たときにすげぇやるせなくて…名無しちゃんが出来るんだってのを見せてやりたかったわけ」


「は、はぁ…ありがとうございます」


そんなに気に入って貰えてるのは正直嬉しい。
名無しだって自分の企画に愛着はあるし、睡眠も食事も削って作り上げたのをたった一人にでも認めて貰えるなんて。




「マルコの事好きだって見てたらわかるし、名無しちゃんが楽しそうに仕事してるの見てるだけで満足してた、この間まではな」




しゃがんでファイルを一つ一つ重ねると、サッチも同じようにしゃがんで名無しと視線を合わせる。



「…でもやっぱりダメだわ。俺悪い大人だったみたい」


「サッチさんは悪い大人なんかじゃないですよ」


「名無しちゃんのこと独り占めしてぇんだよ、俺」



少し拗ねたようにそう呟いたサッチは頭を掻きながら盛大にため息を吐く。



「我慢しようとか応援してやろうとか思ったけど、やっぱり俺は名無しちゃんが好きだし、マルコには渡したくねぇ」




ファイルを集める名無しの手をサッチが掴む。
掴まれた手からまたファイルが落ちて、カシュッと擦れたような間抜けな音が響いた。




「だから、」


「私はマルコさんのことは尊敬してるだけです、別に恋愛対象としてる訳じゃないですよ」


「もうそれはどうでもいいんだけど、要は俺は名無しちゃんが大好きってこと」


「…なんで私なんですか?サッチさんにはもっと可愛い子が寄ってきますよ。自慢できることじゃないですけど私今まで彼氏も居たことないですし」



「…その言い方、付け入られるよ。名無しちゃん」




掴まれた手首に力が入って、泳いでいた視線がサッチに捕まる。

「付け入りますか?」


「名無しちゃんが思うほど俺は大人じゃねぇよ?」

向けられる視線は、仕事をしていたときと酷似していて、名無しは息を飲む。

静まり返った資料室に蛍光灯の鈍い音が響いて、目を反らせないままサッチを真っ直ぐに見返す。



「私、サッチさんのこと‥嫌いじゃないんです」


「悪い、知ってる」



観念したように名無しが目を伏せて呟くと、サッチがへらりと笑った。




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