03
家に入ってすぐに寒い寒いと言い出した名無し。
やっぱり理解できない。
「マルコマルコ、寒い」
部屋の隅で丸くなる名無しにため息を吐いて、暖房を付ける。
徐々に暖かくなっていく部屋に名無しはずるずると地を這うように床にくっつく。
「暖かい…マルコ、泊めて」
「お前、警戒心持てよい」
床に顔を付けたままマルコを見る名無しに、膝掛けを投げると凄い勢いでそれをキャッチして床で丸くなった。
初めて機敏に動く名無しを見た気がする。
「名無し、床に寝んなよい」
「しかしダルい…」
面倒そうに目を閉じようとする名無しをマルコの気力まで削られてしまいそうなぐらいだ。
よくサッチはこんな人間と同棲なんて出来たものだと感心してしまう。
会話も噛み合わないし、相変わらず動こうとしない。
コタツはないから、コタツでは釣れないのでマルコは暫く考えてからソファに毛布を敷いてみた。
「名無し、こっちの方が暖かいよい」
眠そうに目を擦りながらマルコの方を見た名無しは漸く重たい腰を上げてノロノロと毛布の敷かれたソファに釣られてやって来る。
膝掛けで身体をくるんでそのままソファに横になる名無しはまるで本当に捨てられた猫のようだ。
「暖かい」
「晩御飯食うかい」
「んー…どっちでもいい」
小さく身体を折り曲げて頭まで毛布に埋めた名無しはくぐもった声でそう言う。
この様子では何を食べたいか聞いたところで無意味そうだ。
「サッチに連絡しとくよい」
「だめー」
「心配してるよい」
「いやー…まぁまぁ」
家出の理由も言うつもりはないらしい。
宥めるような声を出す名無しにマルコはため息を吐いて、結局携帯を開く。
何があったにしても、サッチに連絡はしないと性格上心配するに違いない。
台所に向かいながらカチカチと簡易的なメールを送る。
『名無しを拾った』とだけ。