祝福の銃声



不貞腐れたように目を反らしたサッチは、持っていた酒瓶に口を付けて大袈裟に喉を鳴らす。

まるでこっちの話は聞きたくないとでも言っているようなその態度は、大まかな感情で振り分けたら嫉妬になるのだろう。
兄には成り得ない立場にいるサッチは完全な兄であるイゾウとマルコを妬んでいるわけだ。

隣にいれるポジションは捨てたくはないし、兄でもいたい。なんとも強欲で海賊らしいと言えば海賊らしい。


「ところでサッチ」

「へいへい」


口煩い二人に掴まってしまった、と眉間にシワを寄せていたサッチはおちょくるような返事をしてからまた酒を煽った。


「お前、自分の気持ちをちゃんと名無しに伝えてないンだろ」


イゾウの言葉にぎくっ、と肩を震わせたサッチは、顔を少し青く染めてから目を伏せた。


「兄貴の話は聞いたんだろい。ならもちろんその後に気が利いた一言があったんだよな」


青ざめていたサッチに畳み掛けるようにマルコが言葉を繋げると、サッチの額を嫌な汗がだらだらと流れていくのを易々と見てとれた。

名無しの反応からしてサッチを好きなのは間違いはない。悲しいことだが。

それなら何故態度が硬化しているのか。端から見ていれば直ぐにわかることだ。サッチだって他人事だったなら相手を馬鹿にしながらこう言うだろう。


「名無しのやつ、お前からの言葉を待ってんじゃねぇのかい」

「…いや、だってよ」


何て言ったらいいのかわかんねぇよ、と消えそうな声で呟いたサッチは誤魔化すように酒を煽って、熱い息を吐き出した。


「死ぬときは一緒に死のうってのもいまいちだしよ、かといって守らせてくれって言っても微妙だし。なんつーか格好つかねぇんだよ…」


ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜたサッチは、空になった酒瓶を床に転がして手のひらでごろごろと撫でた。


「心配しなくてもどんな言葉を並べてもお前は格好よくはなんねぇよい」

「すげぇいい笑顔だな、マルコ」


爽やかに笑いながらサッチの肩を軽く叩いたマルコは、それよりも、と言葉を続けて肩に置いてあった手にぎりぎりと力を込めた。
それに気がついたサッチは、眉を情けなくハの字に歪ませて笑う。


「大切に育ててきた妹をくれてやるンだから俺達にも挨拶の一つぐらいあってもいいんじゃねぇのかい?」


にっこりと気味の悪いぐらいの笑顔を浮かべたマルコに、後ろでイゾウが静かに頷いた。
同時にかちゃりとなにやら物騒な音もした。







祝福の銃声




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