声無き耐え難い悲鳴が身体中を引き裂く。通常の人間なら当に耐えられず死亡する温度になったアクリル板の中は呼吸をする度に気管を構成している蟲が焼け死ぬ音が聞こえる。足元でごうごうと燃え盛る炎は容赦無く空気を凶器に変える。
あの貴族様サマは下衆の極みと呼ぶにふさわしい笑みを浮かべたまま、高みからこちらを見下ろしていた。
「どうかな?お前にはちょうどいいサウナだろう」
ニタニタと下卑た笑みを浮かべる男の目にはこちらに対する蔑みと愉悦しか映っていない。
露出したままだった脚の蟲がボタボタと生き絶えていく。腕や腹、頭の蟲も少しずつ焼死していっているのだろう。身体が欠けていく感覚。寒さに強い蟲に変えたばかりなのが仇になった。普段よりもこの子たちのほうが熱さと火に弱い。
「下賤で醜くしかも海賊?お前のような虫ケラ以下の存在が私を低俗だと言えるのかね。え?」
野太い声を張り上げて唾を飛ばす男を睨むも、片方の瞳を構成していた蟲たちがバラバラと崩れ落ちた。
「は、ははははは!!見ろ!皆のもの!これが化物だ!低俗で下劣な海賊にすら劣る存在だ!!」
頭に浮かぶのはわたしを気味悪がっていた家族の顔。今でこそ話してくれるようになったけれど、この姿を見たらどうなるのだろう。考えるまでもない。悲鳴をあげて後ずさるか、醜いと顔を顰めるか、侮蔑の表情で目を逸らすかだ。今までだってそうだったじゃないか。そうやってわたしは生きて来たじゃないか。今更何も、失うものはない。
「お前が死んだところでなんの価値もない」
願わくば、親父と慕ったあの御方のために死にたかった。
透明な檻
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