タイミングが悪いと言うか運が悪いと言うかなんと言うか、今の自分にはよくわからない。
少し前までなら運が悪いと言い切ったのだろうが、最近自分の気持ちすらよくわからなくなってきた。
「マル‥」
「名無し、丁度良かった。ちょっとこっち手伝ってくんねぇ?」
マルコの名前を呼びかけて、その言葉がマルコに届く前にサッチに声を掛けられた。
軽く挙げていた手を引っ込めてサッチの方に振り返る。
無視する、断ると言う選択肢も勿論あるのだがそれが出来ないのは、サッチの周りを彷徨く蟲のせいだ。
何回叱っても集りに行く蟲に、名無しが逆らえずに平謝りするしか手立てがないのが現状。
サッチは気にしなくていいとは言ってくれているがやはり後ろめたい部分があってサッチからの頼みが断りづらい。
「あ、はい‥」
「悪いな、頼むわ」
両手が塞がっているサッチが足で指す木箱を取って、サッチの後ろをついて行く。
少し重たい木箱の中身は多分銃弾かなにかなんだと思う。
なにもサッチがこんなことをしなくてもいいんじゃないかと思うが、別に名無しが口を出すことじゃない。
ずしりと重たい木箱に少しだけ顔をしかめる。
「名無し、大丈夫か?持ってやろうか?」
「え?あ、うん。全然大丈夫」
2番隊のクルーが見かねたのか声をかけてくれて歓喜のあまり声がちょっと裏返った。
こんな小さな幸せが最近よくある。
ちょっとしたことで声をかけてくれたり、気持ちが悪い身体に躊躇なく触れてくれたり。
そんなこと家族なら当たり前だと最近みんなが言ってくれるようになった。
少し心を開いたら、みんながそれ以上に心を開いてくれて名無しを受け入れてくれて。
そのきっかけをくれたのはサッチだと気がついた。
「おーい、早くしろよ」
「はい」
声をかけてくれた2番隊のクルーをぼんやりと見ていたらサッチが痺れを切らしように少しだけ声を荒げる。
荒げると言うよりもちょっと注意するような、そんな口調だった。
「悪いな、ちょっと急ぎだから」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
立ち止まっていた足を早めて、少しぼやくサッチの後ろを大股でついて行く。
つかつかと進むサッチの足と名無しの足は、コンパスが違うのでちょっとずつ差が広がる。
それを駆け足で埋めて、またサッチのすぐ後ろを歩く。
「さ、サッチ隊長、これ何処まで運ぶ‥ん?」
「あのさー」
突然止まったサッチが名無しの方を振り向く。
慌てて急ブレーキをかけた名無しがサッチを見上げると、なんだか少し不機嫌そうに見えた。
こんな表情を前にも一度見たことがある。
一緒に買い出しに行ったときに、店主に食って掛かっていた時の表情に酷似していた。
「名無しっていつまで俺にだけ敬語?」
「え‥」
「すっげぇ不快なんだけど」
そう言ったサッチに名無しは固唾を飲んだ。
駆け抜ける戦慄
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