難攻不落のお兄様



名無しが家族として馴染んだ。それは物凄く喜ばしい事で、面と向かっては言わないがイゾウも喜んではいた。
もちろんマルコも。



ただ一つ。不満なことを除いては。



「まぁたサッチのヤツ邪魔してるよい」



マルコが呆れたようにため息と一緒に言葉を吐き出す。
名無しの名前に、先程まで笑いがこぼれていた名無しの方を一瞥する。


周りにいたはずの2番隊のクルーはいつの間にか名無しの横をキープするサッチの威圧感に追い払われていた。
苦笑い気味で去っていくクルーに名無し自身はなにも気が付いていないらしく、自責の念に駆られたようなそんな表情を浮かべていた。


名無しは不器用だから、なにかしてしまったんじゃないのかと自分を責め立ててしまう節がある。
間違いなくなにかしたのは名無しの隣でへらへらと人畜無害そうに笑うサッチなのだが、多分名無しがそれに気が付くことはない。


サッチは人畜無害そうにしているだけで、実際のところやはり海賊。欲しいと思ったものには人一倍執着心を見せるし、なんなら横取りだって辞さないだろう。

つまりサッチは家族としてなら兄貴として十二分すぎる程だが、ロックオンされたら一番厄介な相手になる。
本人にその自覚があるのかないのかは知らないが、サッチは気に入ったものに周りを近づけたがらない素振りを見せる。


現にあれだけ名無しが馴染めないことを危惧していたサッチが真逆のことをしているのがいい例だ。



「ありゃ完全に狙われてるねい‥名無しのヤツ」


「だろうな。あんだけ威嚇してりゃ誰だって気付く」



名無し以外は。
名無しは突っぱねてはいるが、周囲に親しい人を求めるような習性がある。
今までは蟲がその役割を果たしていたのだろうが、サッチの肌を覚えてしまってすがり付いているようにも見える。



「蟲がサッチになついてんだろい」


「あァ、そんなこと言ってたな。サッチが餌に選ばれたなら無理に引き離せねェしなァ‥」


紫煙と一緒にため息を吐き出しながらサッチにからかわれて目尻を上げる名無しを見た。



「こっち睨んでるよい。サッチのヤツ」


「まァ、俺等は関所みたいなもんだからな」


本当なら近づくなと言いたいのだろうが、名無しを拾ってきたのはイゾウだし、名無しを可愛がっていたのはマルコだ。
そんなに簡単に通れないことぐらいサッチだってわかってはいるらしい。


もちろんそんなに簡単に通すつもりなんて更々ない。



「放っとけよ、どのみちこっちは避けて通れねェんだから」


「まぁ名無しが馬鹿な選択しねぇことを願うよい」














難攻不落のお兄様



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