まだまだ続く宴で、クルー達のボルテージは下がることはない。
ざわざわと波立つように聞こえてくる騒擾のようなざわめきを聞きながら名無しをゆっくりとベットに下ろした。
身体ごとベットに下ろしたせいか、二人分の体重を支えたベットが痛々しくギッ、と悲鳴をあげる。
名無しの身体を支えていた手の力を緩めて、身体を離すと沈んでいたベットが少しだけ浮いた。
「名無しが宴に参加するとはな‥」
顔にかかった髪の毛を指でそっと払いのける。
月明かりに晒された暢気で幼稚な寝顔を見て、無意識に笑いが零れた。
なんせ名無しがちゃんと宴に参加したのは今回が初めてのことだ。
家族になった時の宴の際には一応最後まで座ってはいたが、イゾウの隣から離れることはなく、他のクルーとも距離を取っていた。勿論酒も進むことはなかった。
その後は顔を見せたらすぐに部屋に引きこもると言うなんともあからさまな態度を取っていたため、クルー達の間では付き合いの悪いヤツだとちくちくと嫌みを言われることもしばしばあった。
それが、なんの心境の変化なのか今日の名無しは楽しそうにエースと飲み比べまでして。
他のクルー達の間で名無しの株はぐんと上がったに違いない。
「‥にぃ、…」
「名無し?」
火照った身体を冷ますように頭を撫でていたら、名無しが身動いで口を開く。
うっすらと目を開けた名無しははにかむように笑って、サッチの手に自らの手を重ねた。
「名無し‥?どうした?」
いつもならはね除けられても可笑しくないのに、酔っ払っているせいか潤んだ目を蕩けさせるように緩めて頬にサッチの手を当てた。
「酔ってんのか?水持ってきてやろうか?」
不甲斐ない心臓が少しだけ鼓動を早めて、沸き上がるような危機感に名無しから目を反らして笑う。
「行かないで‥、側にいて…私を置いていかないでっ」
離そうとする手を名無しがしっかりと握り締めて、潤んだ目からぽろぽろと涙が溢れる。
もうなにがなんだかサッチにはよくわからず、頭の中は爆発しそうなぐらい困惑していた。
「私を‥置いていかないでよっ‥ずっと側に…いてくれるって‥愛してるって、言って‥よ」
悲鳴にもよく似た名無しの嗚咽が、ずきりと胸の奥深くに突き刺さった気がした。
名無しが、自分と誰かと間違っていると気が付くのにそんなに時間はかからなかったと思う。
酔っ払っていれば気が付かずにいられたのかもしれないが、エースと飲み比べをする名無しを見ていたら飲む気にはなれなかった。
「私のこと、嫌いになったの‥?私ずっと待ってたのに‥っ」
絶え間なく流れ続ける涙は、涙腺が壊れたんじゃないかと疑うほど流れ続けて、痛々しくて到底見てられるものじゃなかった。
「名無し、俺はどこにも行かねぇから‥泣くなよ」
「ホント…?」
あどけないような表情で誰かを自分に重ね見る名無しに、無理矢理張り付けた笑顔が悲鳴をあげる。
誰に、こんな顔を見せていたのか。それを考えるだけで頭が痛くなる。
ずきずきと痛む後頭部に少しだけ顔をしかめながら指で名無しの涙を拭った。
「まだ私のこと愛してる‥?私‥沢山、人を傷付けた‥」
「……」
「居場所がなくて‥でも、居場所なんて…自分じゃ探せないよ‥」
「‥名無し、もういい」
小刻みに震える指先から痛いほど名無しの感情が伝わってきて、泣きじゃくる名無しを落ち着かせるように抱き締めた。
「私が‥っ殺したのに‥」
「もういい!名無し、もういいから」
名無しが欲しがってる言葉はわかってる。
気休めで言ってやれるほど軽くないその言葉は、意外にもあっさり口から零れた。
「名無し、愛してる」
言ってから自覚した。
壊れそうな細い肩を抱き締めて、何度も言い聞かせるように繰り返したその言葉は、紛れもなく本心だった。
あふれる
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