「名無し、また留守番か?またには船降りたらどうだ?」
「体調はもういいんだろい」
船首に腰かけて海を眺めていた名無しに、船から降りようとしていたマルコとイゾウが声を掛けた。
ポケットに手を突っ込んで、引き連れていたクルーに先に行くように顎で指示してマルコとイゾウを置いて大盛り上がりでクルー達が降りていく。
「んー、あんま降りたくない。陸の人間は好きじゃない」
足をぶらぶらと揺らして、口を尖らせる名無しにマルコとイゾウは顔を見合わせて苦笑する。
二人は名無しの過去のことを知っているし、それを口外することもない。
蟲も嫌わないし、気が許せるし、側にいて落ち着く。
「サッチとは町に降りたんだろ?」
「あれは仕事だったから仕方なかったの、別に好き好んで行った訳じゃない」
「んじゃ16番隊の隊長が命令すりゃ行くんだねい」
マルコがちらっとイゾウを見て笑うと、イゾウも意味を理解したのか楽しそうに口角を吊り上げた。
「親睦会も必要だよなァ、名無し」
「二人ともいい性格してる」
嫌味をたらふく込めたが、二人には素直に伝わってしまったのかあっけらかんとしていて、余裕の笑みまでおまけについてきた。
「他の隊長命令は聞けて自隊の隊長命令を聞けないなんてこたァねェだろうな?名無し」
「親睦会なんて優しい兄貴達だろい」
面白い玩具でも見つけたかのような二人には歯向かう勇気が足りなかったようだ。
名無しはぶらぶらと揺らしていた足を甲板に付けて、嫌味を込めながらありがとうございます、とだけ笑った。
酒場に出向いた時には既に場は大盛り上がりで、マルコとイゾウが入ってきたことすらクルー達は気がついていなかった。
下船した時は、隊長とか隊員とかはあまり関係ない。
寧ろ隊長達は財布でしかなく、日頃制御している鬱憤をここぞとばかりに発散する。
隊長達も暴れだしたりしない限りは黙認しているし、自隊のクルーが喜べば隊長も自分のことのように喜ぶ。
白ひげの名前を背負う家族達は、本当に仲がいい。
イゾウとマルコに逃げられないようにサイドを囲まれた名無しは逃げ出したい感情と一緒に酒を飲み込んだ。
親睦会なんていいながら本当はそんなもの名目にしか過ぎないことぐらいわかってる。
本当に聞きたいのは、多分この間のことだろう。
「サッチにはなにもされてねェんだろうな」
「なにもされてないし、てかお断りだし」
見かけによらず心配性の自称兄貴達は、サッチが名無しの部屋から出てきたことに心穏やかではないらしい。
親父に似たのか、家族を溺愛しすぎだ。
くすぐったいような、恥ずかしいような感じがどうにも慣れないが、二人が優しいのはよくわかる。
「あいつになんかされたら言えよい、スライスして魚の餌にしてやるからよい」
「それは助かる」
肩を揺らして笑うと、二人が安心したように笑うものだから、なんだか嬉しくなってまた笑った。
隊長で兄貴で心配性で
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