優しい体温




大量の食料を船に運び入れて、二人で終わりを告げるようにため息を吐きだした。

なんと言っても大所帯。食料だってかなりの量だし、搬入は疲れる。
蟲を使えば簡単だが、食料を蟲で運ぶのは他のクルーからしてみれば不愉快に当たるだろう。
汚いと感じるクルーが居て当たり前だ。だから蟲は使わずに地道に運んだ。
サッチは自分がやるからいいとは言っていたが、手伝うと決めたことを途中で投げ出すのは癪だったから最後の一つまでちゃんと終わらせた。




「お疲れ、疲れただろ?」


「いえ、そんなことないです」


本当は寝不足で、身体がダルい。
体内で飼う蟲は基本的に名無しの精力を吸って生きている為、体力が減ると立ってるのも辛くなる。



「嘘吐け、蟲が逃げ出してる」


餌が足りなくなったのか、お腹を空かせた蟲が名無しの身体から離れて島の方に飛んでいく。


背中に滲んだ汗も多分、見抜かれてる気がする。



「顔色悪いけど、」


「大丈夫ですっ、私に触らないでっ!!」



大丈夫か?と慰めるように名無しの頭を撫でようとしたサッチの手を振り払って悲鳴に近い声が喉から突き抜ける。
振り払った勢いでふらついた身体が、何とも情けなくて更に苛々した。



「おいおい、ふらふらしてんじゃねぇか…」



名無しの声に少し怯んだサッチに気まずそうに目を反らして、口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。



「寝れば、大丈夫ですから‥放って置いてください。体調管理が出来てなかった私の責任です」


「やっぱ具合悪かったのか?んじゃさっさと寝ろ、運んでやるから」



荷物を持つみたいに名無しをひょいっと担ぎ上げたサッチに、抵抗しようとはしたがいかんせん身体が言うことを聞きそうにない。
徐々に抜けていく力と、サッチに触れた身体が妙に心地よくて瞼が自然に落ちていく。



「サッチ隊長、離れてください」


「別になんもしねぇって、どうせ放っといても部屋にたどり着けねぇだろ。ふらふらしてるクセに強がってんじゃねぇよ」



少し強めの口調で言われて、名無しは息を詰めた。



「違います、蟲が‥」


「あ?」


「蟲が飢えてるので、今私に触ると巻き添えくらいます‥」



いつもは名無しの体力であまりが出るぐらいだが、今日は寝不足となれない外出、それに加えてサッチの存在が極度のストレスを生んだらしい。
こんなに疲れたのは久しぶりだ。



「巻き添え?肉食われんの?こえー‥」


そう思うなら今すぐ離せよと思うが、サッチは離す気は更々ないらしい。



「うちの子達は肉なんか食べません、食べる子もいますけど‥精力吸われるだけです」



名無しはもう慣れているが、蟲に精力を吸われるのは多分普通の人間には気持ちが悪過ぎるらしい。
亡き兄もたまに巻き添えになっていたが最初は体調を崩していた。



「精力な‥通りでさっきから妙な感じがすんのか」


ずかずかと人の部屋に入ったサッチは名無しをベッドの上に転がして、身体の妙な変化に頷いた。
既に触れた部分から蟲が精力を吸っていたらしい。
サッチの身体が離れたことで、ズンッと身体に掛かる負担が増えて、名無しは短く息を吐き出した。



「触れた部分だけ吸われんの?」



感心するような声を上げたサッチに、名無しがゆっくり瞬きだけで返事をすると、サッチはんーとかあーとか少し悩んだような声を出して頭を掻いてからベッドに乗り上げる。



「んじゃ、俺のこの有り余る元気を名無しにやるよ」


「遠慮します‥ちょっ‥やめて下さい」



嫌がるのを構いもせずに名無しを抱き締めてぴったりとくっつくサッチに、顔を歪めたが、触れる面積がさっきより多くなったせいかだいぶ身体が楽になった。



「馬鹿じゃないんですか、気分悪くなっても‥私知りませんよ」


「ははっ、酷ぇな。ちょっとは心配しろよ」


「私は止めて下さいって言いました」



ぎゅうぎゅうと密着する身体は、酷く懐かしくて涙が出そうになった。



「ま、俺は大丈夫だから。早く寝ろ、おやすみ名無し」



額に触れた唇が、名無しを静かに夢の中に引っ張り込んだ。








優しい体温




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