読めない男



可笑しい。
可笑しい。このフランスパンは頭どうかしてるんじゃないだろうか。

いや前々から可笑しいと疑う部分は多々あったが、それにしても可笑しい。



「名無し、ほら」


「結構です、私甘いものは好きですけどサッチ隊長から施しを受けるほど落ちぶれてはないんで」



可愛らしいデコレーションを施されたバタークリームたっぷりのカップケーキがサッチと名無しの手を行き来する。
サッチが何故かカップケーキをくれると言って、無理矢理押し付けてきたので遠慮を口にして押し返した。


それに遠慮すんな、みたいなお決まりを添えて押し付けてくるものだから、ついつい八つ当たり染みた嫌味が出た。

サッチはキョトンと目を丸くして、戻されたカップケーキを見る。


しまった、とは思ったが、これで少しは距離がとれると思ったら何となくホッとした。



それなのにサッチは、カップケーキから名無しに視線を戻して少し嬉しそうに笑う。



頭が可笑しい。



「俺はお前の為に作ったんだけど?食べないならゴミになるんだぜ?」


「そんな押し付けがましい事言われても、困ります‥」



エースにでもあげればゴミにはならないじゃないかと思うが、サッチは困った困った、とくちにするだけでカップケーキを未だに押し付けてくる。


確かに、美味しそうなのは美味しそうだ。
いかにも有名なお菓子屋さんに置いてありそうなお洒落なデコレーションは、尊敬には値する。が、サッチにほだされるような事だけは嫌だ。



「とにかく!私はいりません、エース‥隊長にでも差し上げてください!」


「無理に敬語使って疲れねぇ?」


「別に無理はしてません、サッチ隊長にタメ語使う方がよっぽど疲れます。と言うか、サッチ隊長と話すの自体疲れます」



苛々して口にした言葉にサッチはへらりと笑うだけで、押し戻されたカップケーキを片手に、名無しの頭をガシガシと強く、優しく撫でた。



「なんですか!?やめてくだ‥」


「無理に愛想笑いされるより、そんな顔見せてくれた方が俺としちゃ嬉しいけどな?」


「……っ!!」


お世辞にも可愛いとは言い難いぐらい嫌悪感を剥き出しにした表情をまさか喜ばれるとは思いもしなかった。



やっぱりサッチは、可笑しい。





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