「随分手酷くフラれたみたいだねい」
宴も最高潮に達し、飲めや歌えや踊れや騒げや、無礼講を極める勢いで隊長副長隊員関係なく酒を浴びるように飲んでいる甲板で、ラムを片手にやって来たマルコがどさりと俺の隣りに腰を下ろす。誰、とは言わなくともわかり切っている。イゾウに一声かけ、随分と前に自室へと帰って行った名無し以外いない。
「見てたのかよ」
「見えてたんだよい」
宴の前半で今回戦闘当番ではなかったのに、名無しの独断とはいえ手を煩わせてしまったことを侘びに酒でも注ごうかと軽いノリで近づいたら、完全に拒否されてしまった。軽口をたたいたのが原因かと思ったが、どうも違うらしい。
蟲で覆われた壁の向こう、一瞬だけ見えた名無しの顔は、今にも泣きそうなほど悲しみに歪み、寄せられた眉根は痛々しく、自嘲するような縋るような、まるで迷子の子どものような表情を浮かべていたから。
俺に八つ当たりしてスッキリするならいくらでも八つ当たりして構わないのに、俺にキツく当たる度に名無し自身が酷く傷ついたような顔をするもんだから、気が気じゃない。
「俺にだけ反抗期なんだもんなァ…」
「なんか心当たりはないのかよい」
「ねーよ。…つか、ちげんだよ」
俺が、なんかしたとか。そんな単純な理由じゃないんだろう。きっと。名無しの過去を知ってるイゾウならば、俺を見るたびに名無しの瞳が悲しみに歪むわけを知ってるのかもしれないが、俺には何も知らされてないし、きっと、知ろうとする権利もないのだろう。
「…ま、うちには反抗期代表のエースがいたからねい。名無しの対お前限定反抗期もそのうち落ち着くんじゃねえのかよい?」
珍しくも慰めの言葉なんて吐きながらラムを呷るマルコに、らしくねえなあと苦笑がこみあげる。全くらしくねえよ、俺も、お前も。
「つかマルコ、お前がんな度数ひっくい酒飲むの珍しくね?体調でも悪いのかよ」
「あァ、ちぃとばかりおイタをした奴がいてねい。潰して来たんだよい」
「おイタァ?」
「さっきの戦闘でねい。可愛い妹をいじめる馬鹿がいたんで一番隊隊長の俺直々に仕込んでやったんだよい」
にやり、そう表現するにふさわしい笑みを浮かべるマルコに俺も自然と口角が上がるのがわかる。
「へぇ…そりゃあそいつらも災難だったな。お前相手に仕込まれたとありゃあ、がっつり潰れてんだろ?そいつら。しょうがねえから4番隊隊長の俺が直々に介抱してやるか」
腰をあげ、近場に転がってたアブセン片手に伸びをする。
「おいおい、やめとけよい。そんなんしたらパズとフィリが遠慮しちまうだろい?」
立ち上がった俺に、船縁に置いてあったウォッカを手渡すマルコ。
「大丈夫だって。俺、気さくで優しいサッチ隊長で有名だから」
酒瓶ふたつを片手にもう片手でひらひらと手を振り、少し先で潰れてるパズとフィリの元に向かう。
まあ反抗期だろうがなんだろうが関係ねんだよ。俺は海賊だから自分の好きなように生きる。
ってわけでいくら名無しが嫌がろうと俺は俺のやりたいように接する。
とりあえず今はふたりの看病しねえとな。
瓶のコルクを歯で開け、アブセンで喉を潤す。手始めにこれ一気飲みさせれば、気分もよくなるだろ?あー俺ってやさしー。
家族として兄として
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