ダメな大人の恋愛術






泣きたいときにたまたま側に居てくれて、泣けない自分を無理矢理泣かせてくれた男がいる。

赤いクセのない髪の少し悪そうな目付きのその男は、なんだかよくわからないが妙に色っぽくて変な格好良さがあった。


その男に付いていきたいと思ったのは多分必然で、その為に両手を血に染めることにもなんの抵抗もなかった。



気紛れで、仲間想いで、狡くて、凶暴で。好きになるのもまた必然だと思った。




「…もうやめる、って言ったらどーする?」


愉しそうに酒の入ったグラスを揺らしながら唇の端を歪ませたシャンクスは目だけを名無しの方へと向けた。
人を射抜くようなその鋭い視線は心地よく、肌が一瞬で粟立つ。

月の光がグラスの縁に反射して妖艶に光って、名無しはそれに目を細めて応えた。


「関係をやめるってこと?」


わざとらしく立てられた膝に指先で触れて、擽るように盛り上がっている膝の骨を撫でる。
名無しの指先を目で追いかけてから、シャンクスが短く肯定するようにゆっくりと頷いて見せた。


指先で脛毛のはえている脹ら脛を撫で上げて、踝に軽く爪を立てる。

それからシャンクスの目を覗き込んで口を開いた。



「じゃあ、シャンクスに従うわ」


爪を立てていた踝に詫びるように指先を宛がい優しく撫でる。
脹ら脛の筋が一瞬ぴくっと震えたがシャンクスの見下すような表情にかわりはなかった。



「なんて、言うわけないじゃない。私だって海賊だもの」



シャンクスの目を覗き込んだまま身体を立てられていた膝に寄せる。


「飽きたから終わりにしようっていうのは、シャンクスらしくて好きだけど」

「そりゃあ、光栄だ」


少しずつ身体を寄せると、次第にシャンクスの顔が名無しを見上げるように持ち上がった。シャンクスの膝にのし掛かるように身体を傾けて、少しだけ高いところからシャンクスを見下ろす。
見下ろしているはずなのに、シャンクスの目を見ていると見下されてるような気持ちになるから不思議でならない。

余裕の笑みを浮かべたままのシャンクスの顔に指を這わせて、息が触れる距離まで顔を近づける。


「でも、一方的に終わらされるのは癪だからちゃんと最後まで付き合って」

「面倒な女」


眉を歪めて溜め息と一緒にそう溢す。
本心なんだろう。シャンクスはあまりこういうことで嘘を吐かない。


「面倒な女に好き好んで手を出したのは頭でしょ」

「面倒な女の方が落とすのが面白いだろ?」

「私と別れるときには面倒な女がトラウマになってるかもしれないわね」


シャンクスの吐き出した言葉を吸い込むように唇を寄せて笑うと、シャンクスは短く笑って頬に触れていた手を掴んだ。



「大好きだから離れたくないの、ぐらい可愛いことは言えねぇのか」


大きな手に絡まった手が、じっとりと汗をかく。


「たまには可愛くしてくれ、って素直に言えばいいのよ」

「たまには可愛くしてくれ」

「お断りよ」

「卑怯だぞ」

「どっちが」


絡めていた手に力が込もって、引き寄せられるように唇が重なる。生ぬるい口腔内は相変わらず酒臭くて、変な甘ったるい味がした。




















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