嘘つきゲーム
「サッチー」
ベッドの上に寝転んでいたサッチの身体の上に倒れ込んだ名無しは、そのままぐでんと崩れた。
「んあー…?なに」
ダルそう答えるサッチは最近買ったばかりの雑誌にご執心のようで、目を離すことはない。
独特な料理が沢山載っていると喜んでいたが、なかなか読む時間がないまま今日まで過ごしたらしい。
4番隊は他の隊よりもハードだったりする。
もちろん他の隊も大変だが、朝昼晩と決められた時間にきっちり食事を用意しないといけない4番隊はハードだと思う。
サッチの腰にタオルケットのように倒れ込んだ名無しは、ごろごろと左右に転がった。
「あー…そこやべぇ。超気持ちいい」
ごろごろと転がった名無しにサッチが雑誌を読むのを止めて、ベッドの上に突っ伏した。
「ここ?ここが気持ちいいの?もっとグリグリして欲しい?」
パンパンに張っている腰に乗っかり、手のひらで強めに押すとサッチから呻き声のような声が漏れた。
「マジ気持ちいい。よだれ出そうなぐらい」
「こんなにガチガチにして厭らしい!」
「そうかよ」
「もっと反応してよ、演じ甲斐がないから」
完全にリラックスモードに入っているサッチは、あーとかそこそことしか言わない。
時折よだれを啜るような音が聞こえるところからして、完全に眠気との狭間をウロウロしているようだ。
「気持ちいい?」
「おー…マジさいこー」
いつもは逞しい腕も力なくベッドから落ちて情けない。こんな油断しきった姿はある意味貴重かも知れない。
みんなが知ってるサッチは、誰よりも隙だらけのくせに本当は誰よりも隙がない。そんな男だ。
きっとマルコだってこんな脱力しきったサッチは知らない筈だ。
腰を押しすぎて手首が痛みだした時、サッチの顔が動いた気がして少しだけ覗き込んだ。
「なにニヤニヤしてんの」
うっすらと笑みを浮かべていたサッチの背中をばしっと軽く叩いて、終わりを告げる。
サンキュ、と小さくサッチが呟いて、うつ伏せから仰向けにごろりと体勢を変えた。
「なに笑ってんの気持ち悪い。思い出し笑いはおっさんのすることだよ」
仰向けになってもまだニヤニヤしているサッチの鼻を摘まむと、漸くにやけ顔が元に戻った。
「いや、なんかお前がマッサージだなんてレアな姿見れたなぁって思って」
「……」
「なんだよ」
「なんでもない」
感心したように呟いたサッチが、自分と似たようなことを考えていたのがなんとなく気恥ずかしくて、思わず顔を反らした。
「あ?なんでお前照れてんの?」
「照れてない」
「顔がめっちゃ赤いんだけど」
「赤いけど照れてはない。ちょっとした体温の上昇だよ」
「ふーん、そうかよ」
顔をわざとらしく覗き込んでくるサッチの顔を避けてそっぽを向く。
避けているのがわかっているのかへらへらと笑いながら顔を追いかけてくる。本当に趣味の悪い男だ。
「てかさっきの嘘」
「は?」
ぽんぽんと頭を撫でたサッチは追いかけるのを止めて、煙草に火をつけた。
かちっ、と安物のライターが鳴ったのを聞いて軽く振り返ると、こっちを見ていたサッチと目があった。
「ホントはお前が俺のこと独り占めしたそうな顔してたから、レアだと思ってさ」
けらけらと楽しそうに笑いながら煙草を持った手で名無しの前髪を撫でる。
「してない」
「いいじゃん。俺はお前のこと独り占めしたいと思ってる」
こめかみを軽く撫でた指はざらざらとしていて、煙草の香りが鼻に付いた。
「弱味を掴んだ感じがして心地よかっただけ」
「俺の弱味はお前だろ」
「なにそれー初耳」
「なにそれ心外」
こんなにぞっこんなのによ、とからかうように笑うサッチは、いつもと同じ笑顔で、いつもと違うことを言う。
「いい加減俺のもんになったらいいのに」
「手に入れたら飽きちゃうくせに」
「わかんねぇだろ?試させてくれてもよくね?」
耳の横に回された手の先でちりちりと煙草が燃える音がして、サッチの顔が近付いてくる。
唇が触れる寸前のところで自分の唇を手で隠した。
「生憎私は無料お試しはやってないので」
「…へー」
「次口説くときは、本気でお願いします」
「毎回それだもんなー」
ちぇっ、とわざとらしく舌を鳴らしたサッチは、唇を隠していた指先にキスを落として離れた。
嘘つきゲーム
「クリアが難しくて俺が諦めたらどうすんの?」
「世界中の女を口説き落とすまで待ってる」
「そうかよ…」