女の子って
「女の子って何でできてると思う?」
お気に入りのケーキ屋さんの箱をぐるりと目の前で回し、ため息を吐くように言葉にした名無しに、クザンは面倒そうに目を細めた。
答えるのも億劫なのか、アイマスクで目を隠して今にも寝る体制に入っているが、実際はそんなに眠くはないのだろうし、聞いていないふりをしながらも聞いているのは百も承知だ。
「ねぇ。女の子はなにで出来てると思う?」
「あー…面倒くせェ質問の塊なんじゃあねェの」
投げやりにそう答えたクザンは、アイマスクの上に本を重ねた。
もう話を聞きたくないとでも言っているんだろう。他の女性にはそこそこ優しくするくせに、同期である自分にはやたら無関心だ。
「いくつに見える?なに考えてると思う?しまいには何でできてると思う?ってな」
欠伸を惜しみなく披露したクザンは、今にも崩れそうな姿勢のままで天井を仰ぐ。
そのまま倒れてしまえばいいと思う。
「女の子は砂糖で出来てるのよ。あと意味不明な質問」
「あー…?てかアンタはもう女の子って年じゃあねェだろ」
俺よりも上のくせに、と禁句を口にしたクザンを睨み付けると、空気で悟ったのか慌てて口を噤んだ。
わざとらしく咳払いをすると、アイマスクの隙間から覗いていた目と目が合った。
すぐに反らされたが、確かに目は合ったと思う。
「いつの間にかアンタが大将だもんね。私も年取ったわー…引退時期ってやつ?」
「つるさん見習うんじゃなかったか?」
「…女の子が砂糖で出来てるなら、萎れかけのおばさんは何で出来てんのかしら」
クザンの言葉を軽く無視して、話を進めると顔の上に乗っていた本がズルっと滑って床に落ちた。
「萎れかけのおばさんは意地とマスタード辺りじゃねェの」
「萎れかけのおっさんは無駄な忍耐力と糠で出来てるのよきっと」
「あららら、八つ当たり?見苦しいよ」
落ちてしまった本を拾い上げたクザンは、表紙を軽く叩いて埃を払う。
「……素直さが欲しい。砂糖で出来てたころに戻りたい」
じろりとクザンを睨み付けていた名無しは大きくため息を吐いて、肩を大袈裟に落とした。
そんな名無しの行動を見ていたクザンは呆れたように目を伏せて、アイマスクを引っ張り上げた。大きなイスが軋む音が馬鹿にしているようにも聞こえる。
「おいおい、馬鹿言っちゃいけねェよ。お前は若い頃も砂糖で出来てたことなんてねェだろ」
「これだから中年は」
「そりゃあお互い様だろ」
若い頃は若い頃で言い出す勇気はなかったが、年を重ねればもう口にすることすら億劫になる。寧ろ感情自体が曖昧になってきて、敬愛と取り間違えてしまいそうになる。
今更青臭いことを口にするつもりもないが、こんな鈍いやつに従い死んでいくのはなんとなく御免だ。
このまま昇進していってクザンが元帥になったら、なんて想像しただけで鳥肌だ。
「勘違いした女に覇気で後ろから刺されたらいいのに」
「そりゃあねェよ。お前を除いたらな」
「成る程、私か。そりゃ伏兵だった。考えとく」
嫌味も込めて笑って見せたが、クザンは然して気にしていないように適当に頷いた。
女の子はなにでできてる?
「ホント、面倒な女」
「アンタにだけ、よ」