狐につままれた参謀
自分で言うのもなんだが、俺は人付き合いがうまい方だと思う。勿論これは過去の経験から言っているのであって、決して自意識過剰なんかではないと思っている。
「……」
そんな俺にも苦手な人間は存在する。
「……」
背後から注がれる痛いほどの視線に、唇を一文字に結んだまま黙々と仕事をこなす。
聞こえるのはペンが羊皮紙の上を滑る音だけだ。
後ろから穴が開くほど睨み付けているのは、名無し。
ついこの間ドラゴンさんが仲間に引き入れたのだが、言っちゃ悪いが目付きがとんでもなく悪い。
何回か話しかけて見たが、淡々とした返事しかなかったため会話が上手く続かなかった。
そんなこともあったり、仕事の関係だったりで、名無しとはあまり関わりがない。
それなのにこの睨まれよう。
親の仇でも見るような目付きだ。
「あの……さ」
あまりの気まずさにくしゃくしゃと髪を掻きながらペンを机に転がす。
静かだった部屋にはペンの音だけでもかなり響いた。
「俺、名無しになんかした?そんなに睨まれるようなことした覚えないんだけど」
思い切って振り返ってみると、名無しは一瞬目を丸くしていた。
「サボさんが、デスクワークしてるの見るのが好きなだけ」
「その顔でさん付け……」
悪気なくそう言った名無しだったが、射殺すような視線を向けたままそんなことを言われても胡散臭くて仕方がない。
「目付きが悪いのは生まれつきで、特に敵意はないです」
前髪をちょいちょいと弄って目を伏せた名無しは、頬をほんのりと上気させた。
視線が外れてから名無しの言葉を思い出して、漸く主旨を理解した。
「……ああ、俺のこと好きなのか」
「最初からそう言ってますけど」
「目が怖すぎて言葉が上手く理解できなかった」
「すみません」
「こちらこそ」
へこへこと頭を下げる名無しに釣られて同じように頭を下げてからボリボリと頭を掻いた。
「えーっと……なんか返事するべきなのか?」
「いいです。特に進展は求めてないので」
「あ、……そうなんだ」
あっさりと首を降った名無しの頬から赤みは消えており、いつの間にか鋭い目付きに戻っていた。
狐に摘ままれた参謀
「女ってわからねェ……」