ありがとうが枯れるまで






太陽のように輝く彼が好きだった。
黒い髪に、印象的なソバカス。好戦的で情に厚くて、親父を誇りに思いながらこの世から居なくなった彼は、再び目の前に炎となって現れた。


「エース」


違うとわかっていても、声をかけずにはいられなかった。
側に駆け寄らずにはいられなかった。

大好きで大好きで、忘れることなんて出来ない存在。
そんなエースの炎が目の前に現れたのだ。


エースの名前に反応したシルクハットを被った男がゆっくりと振り返る。
そこにいたのは待ち望んだ顔ではなく、顔面左に火傷を負った男だった。

歳はエースと同じぐらいだが、黒髪ではなく金髪だし、どこまでも陽気なエースとは違い、どことなく利発そうな顔立ちをしている。


「エース」


男がエースではなく、メラメラの実を手にしたということは、信じたくなかった現実そのものだった。
名前と共にボロボロと涙が溢れて、地面に落ちる。その涙は、止めたくても止める術を知らない。もう2年も前から。


「……あんた、エースのことが好きだったのか」


振り返った男は、表情を隠すようにシルクハットを深く被り、軽く俯く。

肯定しようとして開いた唇は、震えてばかりで上手く言葉を紡げなかった。戒めるように歯で下唇を噛むと、鼻の奥がツンと痛んだ気がした。


「エースは俺の、いや……俺たちの大切な兄弟なんだ」


ズズズッと鼻を啜りながら涙を拭うと、男の口が穏やかに笑っているのが見えた。


「お前、名前は?」

「……名無し、でず……」


止まることのない涙を手の甲で拭いながら嗚咽のような声を絞り出す。
どこも似ていないと思っていた男の穏やかな笑みは、どことなくエースに似ている気がして、兄弟だという言葉がすんなりと身体に入ってきた。


「名無し」


男は穏やかな表情から一転して凛々しい表情になり、シルクハットを脱いで頭を軽く下げた。
ちりっ、と身体の端から赤くて懐かしい炎が顔をだし、別れを告げるように一気に男の身体から炎が吹き出す。



「ありがとう」


はっきりと聞こえた言葉に、ますます涙は止まらなくなって、みっともないくらい大きな声をあげて泣いた。














ありがとうが枯れるまで




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