恋するワニチドリ






「おい、名無し」


久しぶりに会った幼馴染みは、厳ついおっさんへと変貌を遂げていた。


「……誰?」


名無しの言葉に気を悪くしたのか、クロコダイルはあからさまに顔をしかめて、くわえていた葉巻を噛んだ。
昔から厳つい顔付きだったが、歳をとって風格が出てきたように思える。


「テメェ……人の顔を忘れるなんていい度胸じゃあねぇか」


上から射殺すような視線を向けてくるクロコダイルは、相変わらず人を威嚇する癖があるらしい。

昔からそうだが、基本的にクロコダイルは人を威嚇することでしかコミュニケーションを取ることができない。不器用だが一応クロコダイルなりに気にかけてくれている結果だ。

興味がない人間にたいしては威嚇もなにもしない。


「相変わらず見下した言い方するんだねぇ、ワニちゃん」

「テメェも減らず口は相変わらずだな」


ワニちゃん、と呼ばれたクロコダイルは少しムッとしたように顔をしかめたが、その表情もすぐに勝ち気なものに変わる。
今更注意をされたところで昔からのクセなので直せないことぐらいクロコダイルもわかっているのだろう。


「どうしたの?ワニちゃんは海賊になってどこかの社長になったって聞いたけど」

「テメェはその情報はどこから手に入れてんだ」

「旅の人とか?クロコダイル知ってますかー?って聞くとみんなが教えてくれるよ」

「人様のことを勝手に聞いてんじゃねェよ」


どこかで成功したクロコダイルはてっきりもう帰ってこないものだと思っていたので、目の前にいることが不思議でならない。

ジロジロとクロコダイルを観察するように眺めていると、その視線を避けるようにがしがしと前髪をかき混ぜるように撫でてきた。


「どうしたの。成功したら寂しくなった?」

「馬鹿言え」



クロコダイルの手を押し退けて顔を覗き込むと、嫌そうに眉間にシワを寄せて顔を背ける。



「テメェが食うもんに困ってるだろうと思って」

「困ってないよ、大丈夫」

「るせェ、黙って最後まで聞かねぇか」

「ごめん」


三白眼が鋭く睨み付けてくるが、不思議と怖くはない。
それどころか久しぶりに見たクロコダイルは可愛い気がする。



「俺の小間使いとして雇ってやる」


光栄に思えと言わんばかりにそう告げたクロコダイルに、名無しは薄ら笑いを浮かべたまま軽く首を傾げた。
クロコダイルの言っている意味がわからなかったと言うのもあるが、小間使いの意味もよくわからない。


「考えてんじゃねェよ。テメェはへらへら笑いながら頷いてろ」

「うん、そうだね。ワニちゃんのお嫁さんってことかな」

「違ェよ」

「そうか、残念」


ははは、と笑い飛ばした名無しにクロコダイルはむすっとした顔のままで紫煙を吐き出した。

返事も曖昧だったにも関わらずついてこいと言わんばかりに歩き出したクロコダイルの袖をクイクイと引く。


「そのうち?そのうち?」


覗き込むように聞く名無しからまた目を反らしたクロコダイルはため息混じりに口を開く。

「働き次第では考えてやる」


そうぶっきらぼうに告げたクロコダイルの耳は少し赤かった。









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