ランプの中からこんにちは






海の上を散歩していたら、不思議な物を見つけた。
ぷかぷかと浮いていたそのランプは、妙に重たく違和感だらけだ。


「……」


錆びたそのランプを暫く眺めてみたが、特に不振な部分は一つもない。
よくわからない文字の羅列を見るためにゴシゴシと指で擦ると、ランプの口からもくもくと煙のようなものが出てきて、気がつくと目の前に変な少女が立っていた。


「……」


コメントは特にない。
悪意や殺意は感じないただの少女だ。


「んんんっ」


その少女は、黙り込んでいるクザンに痺れを切らしたようにわざとらしく喉を鳴らしてちらりとクザンを見る。


「初めまして、こんにちは。私はランプの精、名前は名無し!外に出してくれてありがとう!」


律儀な挨拶をした名無しは、クザンの手をぎゅっと手を握りしめてぶんぶんと上下に振った。

クザンからしてみれば別に出してやったという感じもしなければ律儀な挨拶もどうでもいい。
ただただ面倒そうなことに巻き込まれたという事実にため息しか出てこない。


「願い事を3つまで叶えてあげますよ!と言っても願い事を増やすことと、死人を蘇らせることと、人の感情を操ることはできないんですけどね」


なにも返事をしないクザンを後目にぺらぺらと喋る名無しは手を握ったままの状態でキラキラと目を輝かせている。


「なんでもいいわけ?」

「なんでもいいよー」


尻尾がついていれば千切れそうなぐらい左右に振っていそうだ。


「じゃあ面倒だから帰っ」

「わあああああ!!!」

「……」


帰ってくれとお願いしようと思ったが、名無しがそれを叫び声で阻止する。
握っていた手に力がこもり、名無しの顔が目の前で小刻みに揺れる。その表情からは必死さを感じた。


「あああっ、止めて止めて止めてよーっ!私をまたランプの中に戻そうとしたでしょ」

「だって面倒そうだし」

「せめてなんか願い事してからにしてよ!どんだけ追い返したいのこの鬼畜!」

「だから願い事しようとしたじゃあないの」


握っていた手を離して腕を掴んだ名無しはすがり付くように力を込める。
今更ながらあんな薄汚いランプを拾ってしまったことを後悔した。


「お願いぃぃ!もうちょっとだけ外にいさせてよぉぉ!外の空気吸いたいよぉぉ!」

「あららら、本当に面倒臭ェなぁ」


すがり付いで鼻を啜る名無しを見たクザンは面倒そうに頭を掻いてため息を吐く。


「じゃあ願い事考え付くまで好きにしたら」

「なら馬車馬のように働くからね!ね!」

「あららら……」












ランプの中からこんにちは




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