おっさんだって





今まで色々な経験をして、色々な女を見てきたが、一目惚れなんてしたことはなかった。
海賊という奔放なことをしているせいか、恋愛に関しては割と冷めているというか、のめり込むようなことはない。

そんなおっさんが、目の前の少女から目が離せなくなってしまっているのだから笑い話じゃすまないだろう。



場所は春島。気候もよく名物である桜が咲き誇っているとても綺麗な島。

そんな綺麗な島に名無しはいた。


特別美人というわけでもないし、可愛いわけでもない。
酒屋の娘らしく、頭にタオルを巻き付けて酒樽を店にせっせと搬入している。

汗を拭いながらにこにこと笑う顔は可愛いというよりは心地よい笑みだ。接客業が天職だろう。


「名無し、こっちから運んでくれ」

「はいはーい!」


店の中から客がひょっこり顔を出して名無しに向かって大きく手を振る。
それに応えるように名無しは飛びっきりの笑顔で手を振り返す。


肌の感じからしてはまだ子供で、色より食い気の方が先にきそうな感じがまた可愛らしく見える。
色気よりも若さに惹かれるなんて、歳をとったように感じる。
少し前までは年上の色気ムンムンのお姉さんを追いかけていたのに、今じゃ元気で爽やかな少女を目で追っているのだから。

「変態」

「変態じゃありません」

「子供に鼻の下伸ばしてるやつがよくそんなこと言えるな。死んで親御さんに謝れよい」

「いや、親に挨拶はまだ早いだろ」

「は?」

「えっ?」


暇を持て余していたマルコが軽蔑するような目でこっちを見て、訝しげに眉を歪めた。


「おいおい、冗談だろい」


引く、と言わんばかりに顔を引きつらせるマルコは心の中を読んだように頭を抱える。


「大丈夫だって!子供もその内大人になるし。海賊なのに欲しいもん逃がしたら意味ねぇだろ」

「いや、お前……」


なにかを言いかけたマルコだったが、出てきたのはため息だけだった。説教をしようと思ったのだろうが、既に右から左である事を悟ったのだろう。

実際、どれだけ諭されても気が変わることはない。


「無理矢理連れて来るのだけは勘弁しろよい……。泣かれると厄介だ……」


色々と諦めたように絞り出したマルコは、言い終わったと同時に重たいため息を吐いた。

「名無しちゃんか……可愛くて悶える」

「聞けよい」












おっさんだって恋をする


「夜拉致するかな」

「お前、俺の話聞いてたかよい?」



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