馬鹿みたいにフォーリンラブ





好きな人が居た。
明るくて男女関係なく人気者で、誰もが憧れる。そんな人を当たり前のように好きになった。

きっかけなんてなにもない。ただ気がついたら好きになっていた。それは呼吸をすることによく似ていたと思う。


「いい加減泣き止んだら?かなりウザイ」


ずぴずぴとみっともなく鼻を啜りながらベッドの上に丸まっていた名無しは、辛辣な言葉を吐き出したハルタの顔を見て、一度思いきり鼻をかんだ。
乙女が出してはいけない音が盛大に鼻から漏れたが、目の前にいるハルタは慣れたような顔で眉一つ動かすことはない。


ハルタとは中学からの縁で、大学になった今でも付き合いは続いている。色んな友達が出来たが、ハルタほど気が合う友達は他に出来ることはなく、未だに暇があればよく遊ぶ。


「突然夜中にメールしてきたと思えば……フラれたとか」


途中で言葉を切ったハルタだったが、馬鹿じゃないのと続けたかったのだろうと言うことは長年の付き合いのせいか容易く読み取れた。


「不完全燃焼な感じが気持ちが悪いよーっ」


いーっ、と強く歯を食いしばりながらクッションを殴る名無しを横目で見たハルタは長いため息を吐いて携帯型のゲームに視線を戻した。

聞いているのか聞いていないのかはわからないが、夜中にも関わらず家に入れてくれるハルタはやっぱり優しいのだと思う。


「そもそも名無しってそいつのどこが好きだったわけ?」

「え」

「誰にでも優しくてみんなが憧れるやつのどこを好きになったのかって聞いてんの」


誰にでも優しいところ、と言おうと思ったが先にハルタに道を塞がれてしまい、言葉を詰まらせた。


「えーっと」

「毎回誰にでも優しいってやつを好きになるけど誰にでも優しければ惚れる名無しの短絡的な思考が理解できないよ、俺は」


かちかちとボタンを連打するような音が聞こえる中でずけずけと意見を言うハルタ。歯に衣着せぬところもある意味ハルタの魅力だと名無しは思っている。
女同士だとなかなかこんな風にはいかない。


「もっと自分の身の丈に合った相手を探せばいいじゃん」

「なるほど、ハルタとか?」

「俺は名無しには勿体無い優良物件だよ」

「意外と冷たい反応だった」

「調子に乗ったヤツには冷たいよ」

「すみません」


ずずっと鼻を啜り最後のティッシュを箱から抜き取った名無しは幾分か軽くなった心に安堵のため息を吐く。
いつもボロクソに言われるが、ハルタの説教が終わる頃には必ずすっきりしている。


「なんかすっきりした。帰って寝よう」

「もう二度と来ないでよね」

「善処します」


ボロボロに崩れた化粧のままだったが、深夜だし誰にも気がつかれないだろうと名無しは鞄を持って立ち上がった。
ベッドでゲームをしていたハルタも漸く寝られると言わんばかりにゲームの電源を切り、大きな欠伸を披露した。


「鍵掛けてポストから投下しときますね隊長」

「そうしといて」


すでに布団に潜り込んでいたハルタの声はくぐもっていて聞き取り辛かったが、いつものことなので気にしない。


「あ、名無し」


違ったのは帰り際に初めて呼び止められた事ぐらいだ。


「え?あ、はい」

「おやすみ」


たった一言。
優しく慰めてくれたわけでもなく、格好いいセリフでもない。
何気なしに眠そうに言われた初めてのその言葉に、心を持っていかれた。










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