筋肉質彼女
俺は頭がおかしいのかもしれない。
そう思い始めたきっかけは、職場にいる色気もくそもない女のせいだったりする。
「てめーなに見てんだコラ!喧嘩売ってんのか」
薄汚れたタンクトップにぼさぼさの髪の毛。
木材を運ぶ腕は逞しく、口を開けば男顔負けなぐらい口が悪い。おまけに毎日の晩酌のせいで酒焼けした声がおっさんのようだ。
ガレーラには相応しい腕と喧嘩っ早さを持つその女は、どんだけ肌を露出していても破廉恥には見えず、ついこの間までは女だという認識すらなかった。
「名無し」
「金なら貸さん」
「そう言うなよ!次のレースで一発逆転してだなー」
「アイスバーグさんお手製の設計図を担保に入れるなら貸してやるけど」
「あの人の設計図は死んでもやらねぇ」
木材を担いでいた名無しはやれやれと言わんばかりにため息を吐いて、腰にかけていた手拭いで口許を拭った。
汗にまみれた身体にはおがくずが張り付き、作業着にはペンキやら油がべったりと染み付いている。
そんな名無しを見てどんなに着飾った女よりも魅力的だと思ってしまうのだから大変だ。
船大工としてはまだ経験不足な部分もあるが、細かな細工をさせれば右に出るものはいないし、どうしても劣る体力面をカバーしきれる程の技術は持ち合わせている。
「おっしゃ!一ミリも狂いなし!」
伸ばしていたメジャーを巻き取りながら小さくガッツポーズを決めた名無しは、視線に気がついたのか小さく舌打ちをして逃げるように木材を担いで持っていった。
その後ろ姿の逞しいこと。
正に頼れる船大工そのもので、口が裂けても可愛らしいとは言えない。
「俺ァ、おかしくなっちまったのか?」
葉巻をくわえたまま顔をしかめると、視線の先を追ったルルが振り返って意味深に頷いた。
哀れむようなその表情に乱雑に頭を掻いて、大きく項垂れる。
きっとこの間頭を打ったときにどこか可笑しくなったに違いない。
筋肉質彼女
「でもまぁ破廉恥よりは筋肉質の方がいいよな?」
「いや、俺はハレンチな方がいい」