育てた魔性
名無しは孤児だった。
この時代よくあることで、気まぐれで拾い気まぐれで育てた。
女として育てた覚えはなかったが、年頃になって当たり前のように女になり、そして男を覚えた。
別に名無しに対して純潔でいて欲しかったわけでもなく、ただただ妹が巣立ったような感覚が寂しいのだと自分に言い聞かせてきていたのだが、それはどうやら違ったらしい。
「サッチー……」
甘ったるく伸ばされた語尾に頭がクラクラする。
意図的に作られた猫のような目に上目遣いで見つめられ、適度に膨らんだ胸が唇より前に身体に触れた。
いつからこんな女の顔をするようになったのか、自分にはさっぱりわからない。
ついこの間まで服を着ないと反抗して全裸で走り回っていた子供だとは到底思えない。
「こっち見てサッチ」
うっすらと開いた唇には薄く色が乗っていて、こうやって男を誘っていたのかと冷静に考えてしまう保護者脳にうんざりしてしまう。
普通ベッドに押し倒されかけたこの状態で、これだけモーションをかけられれば余程のブスじゃなければ美味しく頂く。
それなのに身体が反応しないのは、目の前の名無しを女として認識していないからに他ならないだろう。
ずっと妹だと思っていたのだ。そう簡単に女として認識出来るはずがない。
「やっぱりダメ?」
「ダメっつーか……女に対する恐怖心しかわかねぇよ」
短くため息を吐くと、それに合わせて名無しの身体がしなり、腰を突き出すように顔と胸が迫ってくる。
「私にはもうサッチしか見えないのに……」
「そうかよ」
しなだれかかってくる身体を支えながら適当に返事をすると、名無しは目に見えるように不機嫌そうに顔をしかめた。
昔叱った時にもこんな顔をしていた気がする。
「男遊びはほどほどにしとけよ」
「サッチが私のものになってくれたらよそ見なんてしないのに」
色付いた唇を尖らせて腕を首に絡めてくる名無しは猫のような目を一度伏せてから窺うように見上げてくる。
我が妹ながら魔性だとつくづく思う。
誰がこんな風に育てたのか。
「サッチになら首輪つけられてもいいよ」
口の端からちらりと見える赤い舌が誘惑するように動く。
「名無し、兄貴を誘惑するのは止めろ」
「サッチこそいい加減諦めて私のものになってよ」
「なんで俺がお前のものになるんだよ、馬鹿か」
「なら私がサッチのものになる」
ね、と首を可愛らしく傾げた名無しにまたため息を吐く。
「いらねぇよ」
自分で育てた魔性が
今日も身体を蝕んでいく。