「名無し!テメェ何回言えばわかるんだよ!肌を露出すんな!!その格好のまま此処に来んな!」 「うっさいわよ!このむっつりスケベ野郎!見たくなきゃ見なきゃいいんだろうがこのボケナス!」 ギャーギャーと喚き散らすパウリーと名無しは、毎回だが同じことでほぼ毎日喧嘩を繰り返している。そのせいか、ガレーラカンパニーの社員達は然程気にしない。 毎日の喧嘩の原因は、名無しの露出にある。 と言っても過度に露出しているわけではない。 ツナギを上半身脱いで、腰に巻き付けている状態だ。上半身はタンクトップだが、パウリーが言うほど露出はしていない。 ただパウリーが神経質なだけだ。 「そもそもなんだ!?なんでテメェが仕切ってんだ?ああん?此処はテメェの会社かゴラァ!」 「破廉恥な格好で仕事されたら気が散るって言ってんだろうが!!ここは神聖な職場だぞ!?」 「ここが神聖な職場だって言うならこっちは神聖な船大工様だこの野郎!なんならありのままで!全裸で!走り回ってやろうか!?」 一触即発状態二人だが、胸ぐらを掴む名無しとそれに逃げ腰になっているパウリーでは、見た目的にあまりにも不自然な光景だった。 それでも誰も止めに入らないのは、一応二人はお互いの実力を認め合っている仲間だからだ。 合わないのは貞操概念だけ。 それ以外なら割りと仲がいい。 仕事が始まるときはツナギをきちっと着込んでいるので問題ないのだが、昼の休憩を挟んでからはもっぱら脱いでしまうので、この不毛の言い合いが夜まで続く。 下手すると飲みに行ってまでこの言い合いが続くので、関わりたくないというのが周りの本音だ。 「あーっもういい!そんなに気にくわないならアイスバーグさんに頼んでドッグ変えて貰うから」 「は!?そんなこと言ってねぇだろうが!」 「毎日毎日煩い!面倒だからそれでいいじゃん!」 鬱陶しそうに襟首から手を離した名無しを、慌てた様子で捕まえようとしたパウリーは、剥き出しになった名無しの二の腕を掴む。 「ちょっ…!」 思いきり掴まれた名無しはそのまま磔にされる勢いで、作りかけの船の側面に押し付けられた。 背中を船で思いきり打ち付けた名無しは、痛みで顔を歪めたが、目の前にある必死の形相をしたパウリーに文句を飲み込む。 作りかけだった船はどうもなってはいないが、打撃音はよく響いたようで、上の方で船大工が怒っているのが聞こえる。 「なに」 「は?」 「は?じゃないわよ。骨が折れそうなぐらい人の腕握っといてとぼけたような声出すなボケ」 「……」 訝しげに顔を歪めた名無しに、パウリーは暫くの間口を開かずに、掴んだ手には更に力が入る。 「……パウリー?痛いんだけど?アンタ私のこと木材と勘違いしてない?」 「……」 「おいって」 強張ったような顔で固まっているパウリーに腕を離すように促すが、反応はない。 苛々しだした名無しは、大袈裟にため息を吐いてから目の前にあるパウリーの顎目掛けて思いきり頭突きをかました。 「……っ!」 ガツッと固いものがぶつかるような音が響いて、パウリーが反射的に名無しから手を離し、顎を押さえる。 「テ、メェ……なにすんだ」 「いやいや、パウリーが破廉恥なことしようとしてるのかと思って。正当防衛じゃん」 「ば……っ!これは違っ」 頭突きの痛みで漸く我に返ったのか、かなりの急接近していることに気が付いたパウリーは、一気に顔を赤らめた。 「なんでアンタが照れてんの?バカじゃないの?」 「お前が破廉恥な格好してるからだろ!?」 「その破廉恥な格好の女を船に押し付けてなにしようとしてたわけ?このムッツリスケベ」 「それはお前が……ドッグ変わるとか言うから」 「そもそもアンタが人の身体で厭らしい妄想するからでしょ」 「してねぇよ!」 行き場のない手を痙攣させながら怒りを露にするパウリーだったが、叫んだ後に気まずそうに目を反らして短く目を反らした。 「俺が言いたいのはなぁ」 「唾が飛ぶ」 「……」 「わかってるわよ、ドッグ変わるって言ったから怒ったんでしょ?はいはい」 「ならいい。あとその全裸に近い露出はやめろ」 「うっさいわよ」 舌打ちと一緒に言い返した言葉に、パウリーの怒りが拳になって名無しの顔の隣に撃ち込まれた。 ドゴッと鈍い音が地面伝いに響いて、髪の毛が風圧でふわりと舞う。 「心配だから」 「ああ?」 「心配だからって言いなさいよ、素直に」 真っ直ぐに睨み付けるようにパウリーに視線を向けた名無しに、パウリーは悔しそうにギリギリと歯軋りをした。 「ほらほら」 「……性格悪いぞテメェ」 「明日からビキニで来てもいいんだよ」 「心配するから露出すんな」 「しゃーねーから気をつけてやんよ」 「……」 パウリーは釈然としない様子で再び船を殴った。 悔しくて、愛しくて 「露出すんなって言っただろうが!」 「だからTシャツになったじゃん」 |