理由はよくわからない。
よくわからないのだが、どうやら私はルッチに異常なまでに好意を抱かれているようだ。
買い物を済ませて早足で路地を抜ける。
夕日に染まった街の景色は綺麗だが、暗くなると物騒な輩が沸いて出るのがこの島の悪いところだ。
その為、店も夜の店以外は早々に閉まるし、夜に出歩く住民はまずいない。夜に外を歩き回るのは海賊か、それに似たような分類の人間だけだ。
そんなこんなで、急いで家に帰ろうと足早に家に向かっているわけだが、何故か後ろから堂々とルッチがついてくる。
「あのさ」
「こんなところで立ち止まっていないで早く家に戻れ。日が暮れるとくだらん奴等が増えるからな」
何故ついてくるんだと言おうと思ったが、ルッチは早口で捲し立てる。
心配してくれているのは十分理解できるが、自分も不審者に含まれているとは考えていないようだった。
後をつけてくるということは不審者がすることだと思う。
「大丈夫だからさ、ついて来なくていいよ」
「気にするな」
「いやいや」
ルッチは心配してくれているのだろうが、正直な話ルッチも相当強面だし、態度も横柄以外のなにものでもない。
しかも後をつけてくるなんて序の口で、酷いときは家にも不法侵入してくるヤツだ。ルッチの言うくだらん輩は間違いなく自分のことだ。
何故こんなに好かれることをした覚えが全くないからどうしようもない。
何を言っても聞き入れてくれないので何も言いたくないのだが、限界もある。
「そんなことを理由についてくるルッチの方がよっぽど危ないんだけど」
「なら俺の目が届くところにいろ」
「どんな理論なの、それ」
「お前は抜けてるからな。俺が目を離すとすぐふらふら歩き回るだろ」
「いや、なんか根本が可笑しいだろ根本が!」
ルッチの耳には上手く言葉が入っていかないらしく、会話が成立していない。
毎回のことだが、毎回これで逃げるからルッチのストーカー行為が酷くなるのだと気がついた。
「そもそもルッチの好意は犯罪に近いんだけど」
「お前が俺に心配をかけるのが悪い」
「嘘でしょ!?すごい責任転嫁なんだけど!」
暗くなってきた辺りを見渡した名無しは、抱えていた紙袋を持ち直してルッチの脇を抜けた。
後ろから再びついてくるルッチは、また当たり前に家の中までついてくるのだと思う。
心配という言葉は犯罪意識を薄めてしまうレベルらしい。
恋は盲目とはこういうことを言うのだろう。いざ自分のことになるとしみじみとその恐怖を感じる。
このままでは心配だから添い寝してやると言い出すのも時間の問題だろう。
そんな恐怖から逃れるためにも、今日はきっぱりと言わなくてはいけない。家の前に着いたと同時に決意を固めてルッチの方を振り返る。
「ルッチの気持ちは嬉しいんだけど、心配してもらうような仲でもないし」
「嬉しいなら問題ない」
「嬉しいとか嬉しくないとかそういう問題じゃなくて」
「お前の言ってることは支離滅裂だな」
「……」
色々と言い返したかったのだが、あまりにもルッチの言い分が横柄すぎて言葉が出てこなかった。
お前がな!!
「ちょっとあんたいい加減にしなさいよ!この、変態!ストーカー野郎!」
「なんだ、寂しいなら添い寝してやろうか」
「話聞いて!お願いだから悪い方向に話を持っていかないで!」