「フォォォ!」
船が震えるようなでかい叫び声に、マルコは額を押さえてため息を吐く。
船首の方から聞こえたその声の持ち主は、確か刀売りの行商人だったずなのだが、おかしなことに船首から海に飛び込んで遊んでいる。
それを止めることなく一緒に飛び込んで遊んでいる家族にも違和感を感じるが、2時間もしないうちに溶け込んでしまう名無しには違和感しか感じない。
「なんだあの女!問答無用でいきなり突き落とされたんだけど!?」
船首から逃げるように走ってきたサッチは、何故かはよくわからないが海に突き落とされたらしく、ぼたぼたと髪の毛や服から水が落ちている。
ポケットに入れていたメモや、小銭を干すように甲板に広げる姿は被害者そのものだ。
「ヒィー!ケツから落ちたからケツ痛いー!」
ゲラゲラと下品な笑い声が船首から聞こえてきて、縄ばしごを名無しがよじ登ってくる。
モビーは乗員数が半端ない分、船もかなりでかい。当たり前だが、海面からの高さも相当あるのに飛び込む馬鹿がいるなんて今まで考えたことも無かった。
そんな名無しに引っ張られるようにばか笑いしているクルー達も次々と海に飛び込んでいく。
4番隊のやつなんかは飛び込んだついでに魚を取ってくるという力業まで披露している。
「今日の髪型めっちゃいい感じに決まってたのによー……」
崩れてしまった髪の毛を掻き上げながら唇を尖らせたサッチの向こうでは、ハルタがサッチを指差しながら名無しに何かを吹き込んでいるのが見えた。
ハルタと顔を見合わせて笑った名無しは、髪の毛の水気を絞りながらずかずかとこちらに歩いてくる。
「おい、サッチ。もう一回ポケットの中身全部出した方がいいよい」
「は?なん……ぐぇ!」
「サァッチ!名無しを放っといちゃいやいや!もっと構ってー!」
小銭をポケットにしまいこんでいたサッチに忠告してやろうと思ったのだが、既に遅かったらしく、後ろからヘッドロックされたまま連れていかれた。
華奢な言葉とは裏腹にサッチの首を捕らえる腕は逞しく、力強い。
助けることはもちろん可能だろうが、盛り上がっているところに水を差すのも不粋というもの。サッチがなつかれているということにしておこう。
「ちょっ、服!服を剥くな!」
ついさっき来たばかりの女に服を剥かれているのも、多分なついているからだ。
ハルタとラクヨウが腹を抱えてわらっているが、これはあくまで普通のことに違いない。
よく言えば素直、悪く言えば馬鹿
「男ならパンツ一丁で飛び込んでみろってんだこんにゃろめ!」
「こいつなに言ってんの!?」