名無しがその島に着いたときには、港は既にお祭り状態になっていた。
港に集まっているのは海賊に憧れる子供や四皇を一目見ようとする野次馬。それと商売のために近づきたい商人。
白ひげ海賊団の規模が規模だけに、落とす金もまた莫大なものだろう。


端の方に船を停めたが、誰も気がついてないに違いない。
そこまで小さい船ではないが、モビー・ディック号と並べば蟻みたいなものだ。


「なんだい、お前も来たのかい。見えなくなったから諦めたのかと思ったよい」


ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべながら名無しの方を見る男は、何とも独創的な髪型をしている1番隊隊長の不死鳥マルコだ。
今の白ひげ海賊団の中で古株らしく、隊長の中でも一目置かれているらしい。
勿論白ひげからの信頼も厚い。



「これでも一生懸命ついて来たつもりだったんですけど、やっぱりエンジンの大きさが違いすぎましたね」


マルコのことだから当然嫌味なんだろうが、嫌味にいちいち突っ掛かるほど子供でもない。
マルコからしたら嫌味の一つや二つ言いたくなるぐらい海軍が嫌いなんだろう。元、とは言えそう簡単にわだかまりが消えるわけではない。


「ついてくんなって遠回しに言ってんだよい」

「勿論わかってますよ。でも嫌味を嫌味で返すのはあんまり得意じゃないんです」


不愉快そうに眉を歪めたマルコは、名無しの答えが相当不満だったらしい。
歳は結構いっているが、気の短さから言うと20代レベルだ。

「お前、どういうつもりだい」


マルコの肩からゆらりと青い炎が立ち上がり、幻想的に揺れ動く。
殺気立つというよりは威嚇に近いのだろうが、それでも吐き気がするほどの覇気を感じた。


「私は、裏切らない正義が欲しいんです」

「正義なんてもんは俺たちには存在しねぇよい」

「そうなんですよ。正義を馬鹿にしているのに正義よりも強く自由な海賊に、私は恋をしたんです」


綺麗事を並べたところで、マルコには通用しないことぐらいわかっている。
馬鹿馬鹿しいとわかっていたのに口を閉じていられなかったのは、口を噤むことが不義理な態度だと思ったからだ。


「気が付いたら海軍辞めてました。それでこの気持ちを受け入れて欲しくてここまで来ました」


自分で言っておいてなんだが、凄く恥ずかしい言い分だ。
沈黙に気まずくなって軽く咳払いをすると、マルコは面倒そうに後頭部をがりがりと掻いて舌打ちをした。


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