「なあ、もうわかったからベッドの上で待ち構えんのはヤメロ」


絞り出した声は、自分でもビックリするほど必死で、思わず眉間に皺が寄る。
違和感がありすぎるその声に、眉一つ動かさないままベッドの上で待ち構えていた名無しは、持っていたメモを下ろした。

確かに仕掛けたのは自分の方だし、名無しは忠実に自分が言ったことを守りながら質問をしようとしているのは認める。それがいけないとも勿論言えない。
だが、毎晩毎晩ベッドの上で待機されていては心が安らがないと言うか、理性にばかり神経を使わされて、疲れすぎで寝ることすらままらない。
いくらおっさんだからといっても、夜中に好きな女がベッドの上にいれば嫌でも性的なことを想像してしまう。あまりにも深刻な問題だったため、本人にも言ってみたのだが、特に初々しく動じることもなく、来るなら来いみたいな寧ろ男前な反応で襲ってしまうと負けな感じが半端ない感じの空気になってしまっている。


「私は多分サッチさんのことが好きなんだと思うんです」

「キスまでしといて今さらだろ」

「あれは!サッチさんが不意打ちで仕掛けてきたんじゃないですか!」

「じゃあなんだ。キスさせてくださいって前日にでも事前申告しろってか」

「そ、そこまでは言ってませんけど……、いきなりキスされたら戸惑うじゃないですか」

「そんなもん?俺はよほどのことがない限りそのまま美味しく頂くけど」

「……」


サッチの言葉に言葉を飲み込んだ名無しは、書き綴ったメモに視線を落としてからため息を一つこぼした。見るからに落ち込んでいる名無しに言葉の選択を間違えたのだと気が付いたのはワンテンポ後だった。

サッチの経験からすれば、ここで返ってくるのは軽い軽蔑の視線だったが、名無しの目は哀愁しか漂っていない。
ここまで的外れな反応だと罪悪感も半端ない。


「私はサッチさんが好きです。でもサッチさんは女なら誰でもいいんですか?」

「言っちゃ悪いけどさー、俺はお前にはなんもやんないよ。まじめちゃんが俺のモノになるんだし」


サッチの言葉に何かを感じ取った名無しは、持っていたメモを握りしめたまま俯いて、静かにベッドを降りた。


「サッチさんの言うことは海賊らしくて素敵だと思うんですけど、自分のことだと思うと踏ん切りはつかないもんですね」


本日二度目の失言に気が付いたのは、名無しが部屋から出ていって暫くしてからのことだった。
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