スパスパと煙草を吸うサッチは、いつもよりも随分とペースが早い。根本まで吸って消して、すぐに新しい煙草に火を点ける。

いつもは暇潰しのように吸っている煙草だが、今日は煙草に逃げているように見える。
その原因は、間違いなくサッチの横で興味津々に目を輝かせている名無しなのだろう。何故名無しが目を輝かせているのかは、外野である自分にはわからないが、サッチの予測を遥かに上回ったような行動をとったのではないかと思う。じゃなければサッチがこんなにも逃げ腰でたじたじになっているなんてあり得ないことだ。

サッチはどちらかといえば、余裕があって飄々としているイメージがあるし、実際あまり焦っているところなんて見たことがない。
そんなサッチを追い詰める名無しはある意味凄く恐ろしい。


名無しが不思議そうな顔をして口を開けば、サッチが眉を歪めて、煙草を持ったまま襟首を掻く。困ったようにも不機嫌そうにも見えるサッチの表情は、新鮮で面白いのだが、その分皺寄せが4番隊のクルーにいっているのかと思うと気の毒にもなる。
最近隊長の機嫌が悪いと4番隊のクルーがピリピリしているのをよく知っているからだ。

理由ほ正確にはわからない。名無しのことで間違いはなさそうだが、それをどう解決できるわけではない。
普通好き同士ならそれだけでハッピーエンドになりそうなものだが、あの二人にそんなハッピーエンドはないようだ。



「サッチと名無しって根本的に合わねェんだろうな」

「あの二人じゃサイズが違うからな色々と」


ボソリと独り言のように呟いた言葉に、ラクヨウが返事をする。
今の今まで誰もいないと思っていたが、いつの間にか隣で勝手に酒盛りをしていたらしく、頬の赤いラクヨウが上機嫌に鼻歌なんか歌いながら歯を見せて笑った。


「合う相手を好きになれたら楽なんだろうけどなァ!人間そう上手くはいかねェからよォ!」

「ラクヨウ声でけェって」


酔っているせいか、ボリュームを押さえることが出来ないラクヨウの声は食堂内に響き渡り、他家族の視線は当然のこと、名無しとサッチの視線までもばっちり頂いた。
名無しはいまいちわかっていない様子だったが、察しのいいサッチはなんのことかわかったらしく、また新しい煙草に火を点けた。


「サッチ!頑張れよ!俺ァ応援してっからなァ!」


何故か涙ぐみながら酒の入ったグラスを高々と上げてサッチにエールを送ったラクヨウのつまみは次の日から貧相なスルメだけになっていた。


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