「サッチさんの履歴書下さい!」
一晩中考え抜いた挙げ句、出てきた案はこれしかなかった。正面からそう言われて、サッチは目を丸くしてタバコの灰をポロリと落とした。サッチの後ろでは押し殺したような笑い声が漏れる。
言うにあたって笑われるのは覚悟してきたため、笑われることに抵抗は無かったが、サッチに理解をねだること自体が恥ずかしいので、今すぐ逃げ出して毛布にくるまってしまいたい。
「なんでそこに至ったんだよ。つーか履歴書って」
呆れたように紫煙を吐き出したサッチは、煙草を持った手でこめかみをぎゅうぎゅうと押さえながら眉間にシワを寄せた。
頭が痛いと無言で訴えてくるサッチに、名無しは持っていた質問メモに目を移して、考えられる質問にたいしての答えを探す。
履歴書を貰うために一晩中考えていた名無しは考えられるサッチからくるであろう質問を全てまとめて、更にはその答えを用意してきたのだ。
「サッチさんをより深く知りたいからです」
「……面倒くせェから無理」
「じゃ、じゃあ私の質問に答えてくださるだけでいいんですけど」
持っていたメモをポケットに押し込み、ペンと紙を引っ張り出した名無しにを見て、サッチは再びこめかみを押さえた。
相変わらず後ろでは押し殺したような笑い声が聞こえている。
「あのなー……、」
短くなった煙草をくわえて吸い込んだサッチは、言葉を切りながら一息吐くように紫煙を吐き出した。
そしてちらりと後ろを一瞥してから名無しの二の腕を掴んで逃げ出すように歩き出した。
「ちょっと来い」
オマケ程度についてきた言葉は、引きずられながらでは意味がないように思える。
ペンとメモ用紙を握りしめたままの名無しは、ただただサッチに引きずられるままについてくしかない。呆れたのか、苛立っているのかは付き合いの浅い名無しでは読み取ることは出来ず、確認のとれた煙草の銘柄をメモに書き込んだ。
「お前なー、他の奴等がいるところであんなこと言うの止めろよ」
手を離されたと同時にサッチが深くため息を吐いて、困ったように頭をかきむしる。
「すみません。勢い余って……」
朝から気合いを入れていたので、場所は特に考慮していなかった。周りから笑われることは承知していたが、今思えばサッチも巻き添えをくらった形になってしまった。もう少し考慮すべきたったと思う。
「わかればいいけど。ついでに履歴書はやんねェし、質問にも答えねェ。質問があるならベッドの上でしろ」
捲し立てるように早口でそう言ったサッチは、からかうように紫煙を名無しの顔に吹きかけた。