熱くて溶けそうで、クラクラする。今の気持ちを表すならそうとしか言いようがないだろう。
「……ふッ、」
隙間を見つけて短く息を吐き出すと、それを吸い込むようにサッチの唇が被さってくる。
もう何度同じことを繰り返しているのかよくわからない。
そもそも、片付けを手伝えと言われて厨房に入ったはずなのに、いつの間にか酒置き場でこんなふしだらなことをしている。
酒が置いてある部屋なので、少し涼しい部屋のはずなのに、お互いの熱で肌は汗ばむ。
吸い込む酸素も吐き出す二酸化炭素も熱くて、意識が朦朧としてしまう。おかげで冷静な判断が出来ていない。
「サッチさ……、ちょっと……待っ」
唇が離れた瞬間を狙って逃げるように顔を背けた名無しはサッチの身体を押し返しながら酸素を吸い込んだ。
「散々待ってやっただろ」
「記憶に無いんですが……」
「なに言ってんだ。非常用出口まで引っ張って行ってやったのに戻ってきたのはお前だろ」
「……」
非常用出口とは海軍に戻るために力を貸してくれたことだろう。
確かに好意を無下にしてしまったことはひしひしと感じているが、逃がしてくれようとしていたと言うのは初耳だ。どちらかと言えば付きまとわれてウザイから海軍に追い返そうとしているのかと思っていた。
「とりあえず落ち着きましょう。私もちょっと落ち着いてきましたから」
「俺は酔っ払ってもないし、全然落ち着いてるけど」
「ではまず距離を置いて、それから冷静に話し合いをしましょう。物事には順序が必要だと思うんですよ」
「出たよ。まじめ節炸裂」
呆れたように短く息を吐いたサッチは、子供のように唇を尖らせて頭を掻いた。
負けずに説得しようと口を開いた瞬間、サッチがずいっと手を出して来て、思わずそれを二度見する。
「手を貸せ。お前のまじめ節を一瞬で論破してやる」
眉間にシワを寄せたまま半ば無理矢理名無しの手を掴んだサッチは、有無を言わせないままその手を下半身に持っていった。
「なっ!な……っ!」
手のひらに押し付けられた熱に、思わず手を振り払ってガクガクと震えた名無しは、二の句が紡げないまま顔を真っ赤にして立ち尽くす。
「思い知ったかバカまじめ」
サッチは不満そうにそう呟きながら煙草に火を点けて笑った。