微かに聞こえる波の音を聞きながら、常温の水をちびちびと飲んでいた名無しは、隣でひたすら煙草を吸うサッチに一瞬だけ視線を向けた。
宴も落ち着き、そろそろ酒も遠慮したいと思っていたところに抜群のタイミングでサッチが現れて、酒と水をすり替えてくれた。
そしてその後は隣で煙草を吸っている。
他のクルー達はサッチに遠慮してか、酒を持ってくることはない。
さっきからグラスに並々と注がれているのはただの水なのだが、端から見たら酒か水かはわからないだろう。
「この度は……色々とありがとうございました」
「ま、気にすんな。遊んでただけだしな」
「なんとなくそんな気がしましたけど」
けらけらと楽しそうに笑いながら紫煙を短く吐き出したサッチは、無防備で最初に会ったときよりも少しだけ幼く見えた。
これが見れたのは家族になったからかもしれない。
最初に会ったときのサッチも似たように笑っていたが、目は笑っていなかった。
「でもサッチさんの遊びのおかげでこうやって家族としてモビーに乗ることが出来たので感謝してます」
「じゃあその感謝の気持ちを身体で払え」
「えっ」
悪巧みでもしていそうな目に、吸い込まれるように引き込まれて、言葉に詰まる。
「なにヤらしいこと考えてんだよ。宴の後の片付けだっての」
「考えてません!」
「どうだか。俺のこと性的に見てただろ」
「見てませんってば!」
赤くなったであろう頬から熱を払うようにパタパタと手で仰いだ名無しは、ふと気がついたように手を止めてサッチを見た。
「手伝いってことは、厨房に入ってもいいんですか?」
一度ははっきりとよそ者は入れないと断られていただけあって、サッチの言葉に思わず聞き返してしまった。
「まぁな。俺は家族はこき使うタイプだから、そのうちよそ者扱いの方が良かったって泣きながら思うだろうけど」
短くなった煙草を更に吸い込んだサッチは、吸い殻を水の入ったバケツに捨てて行くぞと言わんばかりに名無しの頭を小突いた。