「私は、その」


目の前に聳え立つ白ひげの口から出た言葉に、名無しは思わず言葉を詰まらせた。
その言葉はなにより望んでいたもので、困ることなんて一切ない嬉しい言葉のはずだった。

それなのにすんなりと言葉が出てこない。


「今更一丁前に怯んでんのか」


二の句が紡げずに目を反らしてしまった名無しに、白ひげはグラララっと大きな声で笑い飛ばした。


「私の中では、家族が漠然としてたんです。でも今回のことで家族の絆がどれだけ大切なものなのか少しだけわかった気がします」


名無しの中で仲間とは、規則の中で育んでいくものであり、正しい道から外れたらそれは生き方が違ったんだと諦めるものだと思っていた。
認められることに必死で、人と同じように同じ方向を向いていないといけないということばかり囚われていた。


本当に少しだが、白ひげ海賊団の隊長達と関わりを持って、今までの概念が変わってきているのを感じている。
だからこそ即答出来なかった。


全てを許容し合い、助け合い、そしてぶつかり合う。
それは父親という大きな存在を中心としていなければできないことだ。

理解できてきたからこそ、どれだけ強く繋がっているのかをより強く感じた。


「グララッ、ハナッタレは小難しいこと考えてねェでお前の思った通りに動けばいい。娘のやった悪戯ぐらい親が面倒みてやらァ!」


色々と考えていたことを全て吹き飛ばすように大きな声でそう言った白ひげは、更に一回り大きく見えた。
こういう姿が人を惹き付けているのだとしみじみと思う。


「エドワード・ニューゲートさん。お慕いしています」

「おいおいそりゃあお前の言葉か?名無し」

「……私も仲間に入れて下さい。不甲斐ない私の父親になってください」

「聞いたか野郎共!待望の妹だ!」


グラグラと大きな声で笑った白ひげは再び石突で床を叩いた。
それに共鳴するかのようにクルの一人が鞘で床を鳴らし、一人は足で床を鳴らす。各々が床を鳴らし初めて、船の上は喧騒に包まれた。

足元から伝わってくる低く重い地響きと、雄叫び声が歓迎してくれていることを表している。

辺りを見渡すと、サッチの姿はいつの間にか見えなくなっていた。

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